「ここにいるよ」 第19話~第28話■ 第19話「迷いと痛みと、ひとつの答え」佐伯がふと声をかけてくる。佐伯「小川さん、今日も少し歩かない?」真帆「あ……今日は、ちょっと……」断りながらも、胸の奥がざわつく。(佐伯くんの言葉、まだ残ってる……“見つけたい”って言われたの、嬉しかった)でも同時に、昨日の三男の言葉も蘇る。「姉ちゃんが誰かに笑ってるの、胸が痛い」真帆(心の声)(……なんで、三男の方が強く残るんだろ)自分でもわからない。その“わからなさ”が、真帆を迷わせていた。真帆が校門を出ると、三男が待っている。昨日よりも、少しだけ近い距離で。三男「……姉ちゃん、帰ろ」真帆「うん」歩き出す二人。沈黙はあるけれど、昨日より柔らかい。真帆「三男、今日……佐伯くんに誘われた」三男「……っ」三男の歩みが止まる。三男「……行ったの?」真帆「行ってないよ」三男「なんで」真帆「……三男が、嫌がると思ったから」三男の目が揺れる。三男「……姉ちゃん」真帆「うん」三男「俺……もっと姉ちゃんの近くにいたい」その言葉は、昨日よりずっと強かった。家に帰ると、家族が待ち構えていた。父「三男、今日こそ言え」母「真帆ちゃん、三男くんの隣座って〜」長男「距離を縮めるチャンスだよ」真帆「やめて!!」三男は真っ赤になって俯く。父「三男。お前の気持ちは家族全員知っている」母「応援してるわよ〜」長男「頑張れ」三男「……やめて……ほんとに……」真帆は三男を見る。(……こんなに顔赤くして、こんなに困ってるのに)胸がまた、じんわり熱くなる。家族が気を利かせて(?)「二人で話しなさい」と言って部屋を出る。真帆と三男だけが残る。静かな夜。時計の音だけが響く。真帆「三男」三男「……なに」真帆「私ね、佐伯くんのこと……嫌いじゃないよ」三男の目が揺れる。真帆「でも……三男のこと考える時間の方が、ずっと長い」三男「……っ」真帆「なんでかわかんないけど……三男が誰かに取られたら嫌だって思った」三男は息をのむ。三男「姉ちゃん……」真帆「うん」三男「俺も……姉ちゃんが誰かに笑うの、嫌だ」真帆はそっと三男の方へ向き直る。真帆「……ねぇ三男」三男「なに」真帆「私たちって……どうなるんだろうね」三男はゆっくり、真帆の手に触れた。三男「……姉ちゃんが嫌じゃなければ、もっと近くにいたい」真帆は少しだけ笑う。真帆「……嫌じゃないよ」二人の手が、静かに重なった。その瞬間、“距離”は決定的に変わった。■ 第20話「触れた手の温度が、全部を変えた」リビングに残されたのは、真帆と俺だけだった。家族は気を利かせたつもりらしいけど、正直、逃げ出したかった。でも――真帆が隣に座った瞬間、逃げるという選択肢は消えた。真帆「三男」三男「……なに」声が震えていた。自分でもわかる。真帆「私ね、佐伯くんのこと……嫌いじゃないよ」胸が、一瞬で冷たくなる。(……そうだよな。佐伯くんは優しいし、ちゃんと真帆を見てる)でも次の言葉が、その冷たさを一気に溶かした。真帆「でも……三男のこと考える時間の方が、ずっと長い」心臓が跳ねた。(……俺?俺のこと?)真帆は続ける。真帆「三男が誰かに取られたら嫌だって思った」その瞬間、息が止まった。(……姉ちゃん)真帆の横顔は、夕方よりもずっと近くて、ずっと柔らかかった。三男「姉ちゃん……」言葉が喉でつかえる。(好きとか、恋とか、そんな簡単な言葉じゃ足りない)真帆「うん」三男「俺……姉ちゃんが誰かに笑うの、嫌だ」真帆は驚いたように目を見開いたあと、少しだけ笑った。真帆「……私もだよ」胸の奥が、じんわり熱くなる。真帆がそっと、俺の方へ向き直った。真帆「ねぇ三男」三男「……なに」真帆「私たちって……どうなるんだろうね」どうなるかなんて、わからない。でも――わからないからこそ、言わなきゃいけない言葉があった。三男「……姉ちゃんが嫌じゃなければ、もっと近くにいたい」真帆は少しだけ笑って、俺の手に触れた。真帆「……嫌じゃないよ」その瞬間、世界が静かになった。時計の音も、外の車の音も、全部遠くなった。触れた手の温度だけが、はっきりと残った。(……ああ。もう戻れない)そう思った。真帆は手を離さなかった。俺も離せなかった。三男(心の声)(姉ちゃん。俺はずっと、ここにいるよ)声にはしない。でも、確かにそう思った。そして――この夜を境に、俺たちの距離は“元には戻らない”とはっきりわかった。■ 第21話「触れた手の温度と、翌日のすれ違い」リビングに残されたのは、三男と私だけだった。家族が気を利かせたつもりなのはわかるけど、正直、逃げたかった。でも――三男が隣に座った瞬間、逃げる理由は消えた。三男「……なに」真帆「三男、昨日のこと……」声が震えていた。自分でも驚くくらいに。三男は、私の言葉を聞くたびに少しずつ表情を変えていった。真帆「佐伯くんのこと、嫌いじゃないよ」三男の目が揺れた。胸が痛んだ。(……あ、これ言っちゃダメだったかな)でも、本当に言いたかったのはその先だった。真帆「でも……三男のこと考える時間の方が、ずっと長い」三男の呼吸が止まった気がした。(あ、これ……言ってよかったんだ)胸の奥が、じんわり熱くなる。真帆「三男が誰かに取られたら嫌だって思った」言った瞬間、自分の心の形がはっきりした。三男「……姉ちゃん」その声が、いつもより低くて、いつもより近かった。そして――三男がそっと、私の手に触れた。温かかった。驚くほど。真帆(心の声)(……ああ、もう戻れない)そう思った。目が覚めた瞬間、昨日の手の温度が蘇った。(……どうしよう)嬉しい。でも、怖い。三男の顔を見たら、昨日の続きみたいになってしまいそうで。教室に入った瞬間、ゆかりが叫ぶ。ゆかり「真帆!!なんか今日、顔赤くない!?」真帆「赤くない」姫「心拍数が昨日より高い」真帆「測るな!!」ゆかりはニヤニヤしている。ゆかり「三男くんと何かあったでしょ」真帆「……っ、なにもない」姫「反応速度が“図星”」真帆「やめて!!」(……言えるわけない)校門を出ると、三男が待っていた。でも――昨日より距離が遠い。三男「……帰ろ」真帆「うん」歩き出す。沈黙が、昨日より重い。真帆「三男、昨日のこと……」三男「忘れていいよ」真帆「……え?」三男「姉ちゃん、困ってるなら……忘れていい」胸が、ぎゅっと締めつけられた。(困ってなんかないのに)真帆「……三男は、忘れたいの?」三男「……わかんない」その言葉が、昨日よりずっと遠く感じた。真帆(心の声)(……なんで、こんなに遠いの)昨日あんなに近かったのに。家に帰っても、三男は目を合わせてくれなかった。真帆(心の声)(……私、何か間違えた?)昨日の温度が、今日の冷たさに変わっていく。真帆(心の声)(近づいたと思ったのに……どうしてすれ違うんだろ)静かな夜が、昨日とは違う意味で胸に刺さった。■ 第22話「すれ違いの理由、触れ直す手」昨日の冷たさがまだ胸に残っている。校門で三男を見つけた瞬間、胸がきゅっと締まった。真帆「……帰ろ」三男「うん」歩き出す。沈黙が、昨日より重い。真帆「三男、昨日のこと……」三男「忘れていいよ」その言葉が、また胸に刺さる。真帆「……三男は、忘れたいの?」三男「……わかんない」(わかんない、じゃないよ……昨日あんなに近かったのに)真帆は言葉を飲み込んだ。三男(心の声)(忘れたいわけない。でも……姉ちゃんが困ってるなら、俺が距離を置くべきだと思った)真帆が困った顔をした瞬間、胸が痛んだ。(俺のせいで困らせたくない)だから“忘れていい”と言った。でも――(言った瞬間、俺の方が苦しくなった)真帆「……三男」三男「なに」真帆は深呼吸して、勇気を振り絞った。真帆「昨日のこと……困ってないよ」三男「……え?」真帆「困ってない。むしろ……嬉しかった」三男の目が揺れる。真帆「三男が“近くにいたい”って言ってくれたの、ずっと残ってる」三男「……姉ちゃん」真帆「だから……忘れたくない」沈黙。でも、昨日とは違う沈黙。三男(心の声)(……よかった)喉の奥が熱くなる。三男「俺……姉ちゃんが困ってると思って……距離置いた方がいいのかなって……」真帆「困ってないよ。むしろ……距離置かれる方が困る」三男は息をのむ。三男「……ごめん」真帆「謝らなくていいよ」二人の影が、夕暮れの道で重なった。真帆はそっと、三男の袖をつまんだ。真帆「ねぇ三男」三男「……なに」真帆「昨日みたいに……手、つないでいい?」三男の目が大きく開く。三男「……いいの?」真帆「うん。忘れたくないって言ったでしょ」三男はゆっくり、真帆の手を取った。温かい。昨日と同じ温度。でも――昨日よりずっと安心する温度。家に帰る道、二人は手を離さなかった。三男「姉ちゃん」真帆「なに」三男「俺……昨日より、もっと近くにいたい」真帆は少しだけ笑う。真帆「……私もだよ」すれ違いは、静かに、確かに解けた。そして二人の距離は、昨日よりも深く、昨日よりも温かくなった。■ 第23話「祝賀ムード暴走家族、そして逃げ場のない二人」階段を降りた瞬間、真帆は違和感に気づいた。テーブルの上には・クラッカー・紙吹雪・“おめでとう”の文字(誰が書いたのか不明)・母の手作りケーキ(※朝から)真帆「……何これ」母「真帆ちゃん、おめでとう〜」真帆「何が!?」長男「昨日、三男と仲直りしたでしょ」真帆「なんで知ってるの」父「三男の顔が“進展あり”だった」真帆「表情筋で判断するな!」三男は真っ赤になって俯いている。三男「……やめて」母「照れてる〜かわいい〜」長男「三男、昨日手つないだ?」真帆「なんでそこまで知りたいの!?」父は腕を組んでうなずく。父「よし、祝賀会を始める」真帆「始めるな!!」母「まずはケーキね〜」真帆「朝からケーキ食べないよ!」長男「じゃあ俺が食べる」父「三男、真帆の隣に座れ」三男「……いや」父「座れ」三男「……はい」真帆「なんで命令形なの」母はにこにこしながら言う。母「真帆ちゃん、三男くんのこと好きなんでしょ〜」真帆「ちょっ……!」長男「三男も真帆のこと好きだしね」三男「ちょ、ちょっと……!」父「交際前祝いだ」真帆「まだ付き合ってない!!」家族のテンションは最高潮。三男は真っ赤になって、真帆の横で固まっている。三男「……姉ちゃん、ごめん」真帆「なんで謝るの」三男「俺のせいで……こうなってる」真帆「三男のせいじゃないよ。家族が勝手に暴走してるだけ」父「聞こえてるぞ」母「暴走じゃなくて応援よ〜」長男「祝賀ムードだよ」三男「……ほんとにやめて」でも、真帆は気づいていた。(……三男、ちょっと嬉しそう)ほんの少しだけ、口元が緩んでいた。父「では、二人の今後の計画を話し合おう」真帆「話し合うな!!」母「まずはデートね〜」真帆「行かない!!」長男「いや行くでしょ」真帆「行かない!!」三男「……行きたい」真帆「えっ」家族「(聞こえてるぞ)」三男「……っ、違う……違わないけど……違う……」真帆「どっちなの」父「よし、デート計画を立てる」真帆「立てるな!!」騒ぎの中、三男がぽつりと言う。三男「……姉ちゃん」真帆「なに」三男「俺……昨日のこと、嬉しかった」真帆は一瞬で顔が熱くなる。真帆「……っ、三男……」家族「(聞こえてるぞ)」真帆「聞くな!!」三男は続ける。三男「姉ちゃんが……俺のこと考えてくれてたの、嬉しかった」真帆は俯く。(……ずるいよ、そういうの)でも、胸の奥がじんわり温かくなる。父「よし、二人は順調だ」母「おめでとう〜」長男「交際前祝い、成功」真帆「成功じゃない!!」三男「……ほんとにやめて」でも、真帆も三男も、どこか笑っていた。家族の暴走は迷惑だけど、その騒がしさの中で“二人の距離が確かに変わった”ことだけは誰よりも家族が気づいていた。■ 第24話「気づかれる距離、気づいてしまう想い」真帆が靴を履いていると、三男が少しだけ緊張した顔で声をかけてきた。三男「……姉ちゃん、今日……寄り道して帰らない?」真帆「寄り道?」三男「……うん。デートじゃないけど……一緒に行きたい場所がある」“デートじゃないけど”その言い方が、逆に胸をくすぐる。真帆「……いいよ」三男の表情が、ほんの少しだけ緩んだ。真帆と三男が並んで歩き出す。その距離は、以前より自然で、以前より近い。佐伯は校門の影からその姿を見ていた。佐伯(心の声)(……あれ)二人の影が重なったり離れたりする。そのリズムが、“家族”の距離ではなかった。佐伯(心の声)(小川さん……昨日より、三男くんの方を見てる)胸の奥が、静かに痛む。三男が連れてきたのは、学校から少し離れた小さな公園だった。夕暮れの光が、ブランコの鎖を金色に染めている。真帆「ここ、久しぶり」三男「……姉ちゃん、小さい頃よく来てたから」真帆「覚えてたの?」三男「……全部」真帆の胸が、ふっと温かくなる。二人は並んでブランコに座る。風が頬を撫でる。三男「……姉ちゃん」真帆「なに?」三男「昨日のこと……嬉しかった」真帆「……私もだよ」沈黙。でも、心地いい沈黙。偶然、公園の前を通った佐伯は、ブランコに並んで座る二人を見つけた。夕暮れの光の中で、真帆が三男の方へ少しだけ寄りかかっている。佐伯(心の声)(……ああ)その光景は、“家族”ではなく“誰かを選んだ二人”の距離だった。佐伯(心の声)(小川さん……もう、俺の入る隙間はないんだ)胸が締めつけられる。でも、その痛みは静かで、どこか納得してしまう痛みだった。真帆「三男」三男「……なに」真帆「今日、誘ってくれて嬉しかったよ」三男は少し照れたように俯く。三男「……姉ちゃんと一緒にいたかっただけ」真帆「うん。私も」風が吹き、二人の影が重なる。真帆はそっと、三男の袖をつまんだ。真帆「……また来ようね」三男「……うん。何回でも」その言葉は、“デート未満”を“特別な時間”に変えるには十分だった。佐伯は公園から離れながら、夕暮れの空を見上げた。佐伯(心の声)(小川さん……幸せそうだったな)悔しさでも、嫉妬でもない。ただ、静かに胸に落ちる痛み。佐伯(心の声)(……あの距離は、俺には作れない)そう気づいた瞬間、彼は初めて“諦め”という言葉を自分の中で受け入れた。■ 第25話「諦めきれないのに、もう届かない」校舎を出た瞬間、佐伯は二人の姿を見つけた。真帆と三男。昨日より近い距離で歩いている。真帆が三男の袖をつまんで、三男が少し照れたように笑っている。佐伯(心の声)(……また、距離が近くなってる)胸の奥が、静かに沈んだ。佐伯は一歩踏み出そうとして、足が止まった。(声をかけたら……邪魔になる気がした)真帆の横顔は、どこか安心していて、どこか甘えていて、“誰かの隣”にいる顔だった。佐伯(心の声)(俺の前では……あんな顔、しなかった)その事実が、思った以上に胸に刺さる。二人が角を曲がって見えなくなっても、佐伯はしばらくその場に立ち尽くした。佐伯(心の声)(……小川さんのこと、まだ諦められない)昨日の笑顔が、夕暮れの光の中で揺れる。佐伯(心の声)(もっと話したかった。もっと知りたかった)でも、その“もっと”が叶わない気がしていた。帰り道、佐伯は偶然、公園の前を通りかかった。そこで見たのは――ブランコに並んで座る真帆と三男。真帆が三男の袖をつまんで、三男がその手をそっと握り返す。夕暮れの光が、二人の影をひとつにしていた。佐伯(心の声)(……ああ)胸の奥が、静かに崩れていく。(もう……俺の入る隙間はない)佐伯は公園から離れながら、空を見上げた。佐伯(心の声)(小川さん……幸せそうだったな)その光景は、悔しさよりも、嫉妬よりも、“納得”に近かった。でも――佐伯(心の声)(それでも……諦めきれないんだよ)胸の奥に残った小さな痛みが、まだ消えない。に向かっても、教科書の文字が頭に入らない。佐伯(心の声)(小川さん……俺、どうしたらよかったんだろ)もっと早く声をかけていたら。もっと勇気を出していたら。そんな“もしも”ばかりが浮かぶ。佐伯(心の声)(……でも、もう遅いのかな)窓の外の夜風が、静かに揺れていた。■ 第26話「それでも、伝えたかった」真帆と三男が並んで歩く姿を見てから、佐伯はずっと胸の奥がざわついていた。(もう届かない。でも……このまま何も言わずに終わるのは、もっと嫌だ)告白じゃない。奪うつもりもない。ただ――“ちゃんと向き合いたい”だけだった。真帆が帰り支度をしていると、佐伯は静かに声をかけた。佐伯「小川さん、少し……いい?」真帆「あ、うん」三男は少し離れた場所で待っている。その視線が痛いほどわかる。(ごめん。でも、これだけは言わせてほしい)二人きりになった瞬間、佐伯は言葉を失った。真帆「どうしたの?」佐伯「……うまく言えないんだけど」夕暮れの光が、真帆の横顔を柔らかく照らす。(やっぱり、綺麗だな)でも、その光は自分のものじゃない。佐伯「小川さん……最近、すごくいい顔してる」真帆「え?」佐伯「前より……ずっと、柔らかい顔」真帆は少し照れたように笑う。佐伯「……誰かの隣にいる顔だなって思った」真帆の表情が、一瞬だけ揺れた。佐伯「それが……三男くんなんだろうなって」真帆「……うん」その“うん”が、胸に静かに落ちた。痛いけど、どこか救われる痛みだった。佐伯「小川さん。俺……君のこと、ちゃんと好きだったよ」真帆「……佐伯くん」佐伯「でも、奪うつもりはない。君が誰を選ぶのかは……君が決めることだから」真帆は目を伏せる。佐伯「ただ……君が幸せそうで、よかった」それは嘘じゃなかった。本当に、そう思った。真帆が三男のもとへ戻る。三男は不安そうに、でも真帆を信じるように立っていた。二人が並んだ瞬間、距離が自然に近づく。佐伯(心の声)(……ああ。やっぱり、俺の入る隙間はない)でも、その光景を見て初めて、胸の痛みが少しだけ軽くなった。佐伯は空を見上げた。(小川さん。ありがとう)言葉にはしない。でも、心の中でそっと呟いた。そして――彼はようやく、前に進む準備ができた。■ 第27話「問い詰められて、気づいてしまう」昨日の“デート未満”の帰り道。三男の袖をつまんだ感触が、まだ指先に残っている。真帆(心の声)(……なんで、こんなに思い出すんだろ)胸の奥が、じんわり熱い。教室に入った瞬間、ゆかりが机を叩いて立ち上がる。ゆかり「真帆!!昨日、何があった!!」真帆「な、なんにもないよ」姫「嘘。表情筋が“進展あり”」真帆「表情筋で判断するな!!」ゆかりは真帆の肩を掴む。ゆかり「三男くんとどこ行ったの!?なんでそんなに顔赤いの!?」真帆「赤くない!」姫「心拍数、昨日より高い」真帆「測るな!!」ゆかりは目を細める。ゆかり「真帆……三男くんのこと、好きになってきてるでしょ」真帆「……っ」その瞬間、胸が跳ねた。否定しようとしたのに、言葉が出てこない。姫は静かに言う。姫「反応速度が“図星”」真帆「やめて!!」ゆかりは真帆の机に身を乗り出す。ゆかり「ねぇ真帆。佐伯くんのこと考えるより、三男くんのこと考える時間の方が長いんじゃない?」真帆「……っ」図星だった。真帆(心の声)(なんで……なんで三男のことばっかり思い出すの)姫が静かに言う。姫「真帆は“三男くんに取られたくない”と感じている」真帆「……っ、なんでわかるの」姫「表情筋」真帆「表情筋で全部わかるな!!」でも、否定できなかった。校門で三男が待っている。昨日より少しだけ近い距離で。三男「……帰ろ」真帆「うん」その“うん”が、昨日より自然に出た。歩きながら、真帆はふと三男の横顔を見る。(……なんでこんなに安心するんだろ)佐伯と話した時の“緊張”とは違う。三男といる時の“落ち着き”とも違う。もっと、深いところに触れる感覚。三男がふと、真帆の方を向く。三男「……姉ちゃん、今日なんか変」真帆「変じゃないよ」三男「変」真帆「変じゃないってば」でも、胸の奥はずっとざわついていた。真帆(心の声)(……私、三男のこと……)言葉にしようとした瞬間、心臓が跳ねた。(……まだ言えない)でも、確かに何かが変わっている。家に帰っても、ゆかりの言葉が頭から離れない。「三男くんのこと、好きになってきてるでしょ」真帆(心の声)(……好き、なのかな)胸に手を当てる。鼓動が速い。(佐伯くんの時とは違う。三男の時は……もっと、深いところが揺れる)気づきたくなかった気持ちが、静かに形になっていく。真帆(心の声)(……私、三男のこと……)言葉にならないまま、胸の奥が熱くなる。■ 第28話「正式デート推進家族、逃げ場なし」階段を降りた瞬間、真帆は気づいた。父は新聞を逆さに持ち、母はエプロンの紐を結び忘れ、長男は妙にニヤニヤしている。真帆「……何その顔」母「真帆ちゃん、今日の予定は?」真帆「学校だけだけど」長男「放課後は?」真帆「帰るけど」父「三男と?」真帆「なんでそうなるの」三男はテーブルの端で固まっている。三男「……やめて」母「照れてる〜かわいい〜」長男「昨日の帰り、手つないでた?」真帆「なんで知ってるの!?」父「三男の顔が“つないだ”だった」真帆「表情筋で判断するな!!」父が咳払いをして、妙に真面目な顔で言う。父「真帆。三男。そろそろ正式にデートしたらどうだ」真帆「しない!!」三男「……っ、いや……その……」母「三男くん、行きたいんでしょ〜?」三男「行きたい……けど……」真帆「えっ」長男「ほら、三男もこう言ってるし」真帆「言ってない!!」三男「言った……」真帆「言ったの!?」父は満足げにうなずく。父「よし、決まりだ」真帆「決めるな!!」母「まずは服ね〜。真帆ちゃん、可愛いワンピース持ってる?」真帆「持ってない!!」長男「じゃあ買いに行こう」真帆「行かない!!」父「三男、どこに行きたい」三男「……姉ちゃんが行きたいところ」真帆「ずるい言い方しないで!!」母はメモ帳を取り出す。母「映画、カフェ、公園、ショッピング……」真帆「全部やめて!!」長男「じゃあ全部やろう」真帆「やらない!!」三男は真っ赤になりながらも、どこか嬉しそうに俯いている。(……ほんとに行きたいんだ)その表情に、真帆の胸が少しだけ熱くなる。父「三男。男なら堂々と誘え」三男「……無理」母「大丈夫よ〜真帆ちゃんも嬉しいわよ〜」真帆「言ってない!!」長男「でも顔が“嬉しい”だよ」真帆「表情筋で判断するな!!」三男は小さく息を吸って、真帆の方を向く。三男「……姉ちゃん」真帆「なに」三男「今度……どこか行きたい」真帆「……っ」家族「(聞こえてるぞ)」真帆「聞くな!!」でも、胸の奥がじんわり温かくなる。父「よし、正式デート決定だ」真帆「決定じゃない!!」母「真帆ちゃん、楽しんできてね〜」長男「三男、頑張れ」三男「……うん」真帆は顔を覆う。(……なんでこんな流れに)でも、三男の横顔を見ると――(……嫌じゃない)その気持ちに気づいた瞬間、胸がまた熱くなる。真帆「……三男」三男「なに」真帆「ほんとに……行きたいの?」三男「行きたい。姉ちゃんと一緒にいたい」真帆「……っ」家族の騒がしさとは違う、静かで真っ直ぐな言葉。真帆「……じゃあ、考える」三男「……うん」その“うん”が、昨日よりずっと嬉しそうだった。
「ここにいるよ」 第19話~第28話■ 第19話「迷いと痛みと、ひとつの答え」佐伯がふと声をかけてくる。佐伯「小川さん、今日も少し歩かない?」真帆「あ……今日は、ちょっと……」断りながらも、胸の奥がざわつく。(佐伯くんの言葉、まだ残ってる……“見つけたい”って言われたの、嬉しかった)でも同時に、昨日の三男の言葉も蘇る。「姉ちゃんが誰かに笑ってるの、胸が痛い」真帆(心の声)(……なんで、三男の方が強く残るんだろ)自分でもわからない。その“わからなさ”が、真帆を迷わせていた。真帆が校門を出ると、三男が待っている。昨日よりも、少しだけ近い距離で。三男「……姉ちゃん、帰ろ」真帆「うん」歩き出す二人。沈黙はあるけれど、昨日より柔らかい。真帆「三男、今日……佐伯くんに誘われた」三男「……っ」三男の歩みが止まる。三男「……行ったの?」真帆「行ってないよ」三男「なんで」真帆「……三男が、嫌がると思ったから」三男の目が揺れる。三男「……姉ちゃん」真帆「うん」三男「俺……もっと姉ちゃんの近くにいたい」その言葉は、昨日よりずっと強かった。家に帰ると、家族が待ち構えていた。父「三男、今日こそ言え」母「真帆ちゃん、三男くんの隣座って〜」長男「距離を縮めるチャンスだよ」真帆「やめて!!」三男は真っ赤になって俯く。父「三男。お前の気持ちは家族全員知っている」母「応援してるわよ〜」長男「頑張れ」三男「……やめて……ほんとに……」真帆は三男を見る。(……こんなに顔赤くして、こんなに困ってるのに)胸がまた、じんわり熱くなる。家族が気を利かせて(?)「二人で話しなさい」と言って部屋を出る。真帆と三男だけが残る。静かな夜。時計の音だけが響く。真帆「三男」三男「……なに」真帆「私ね、佐伯くんのこと……嫌いじゃないよ」三男の目が揺れる。真帆「でも……三男のこと考える時間の方が、ずっと長い」三男「……っ」真帆「なんでかわかんないけど……三男が誰かに取られたら嫌だって思った」三男は息をのむ。三男「姉ちゃん……」真帆「うん」三男「俺も……姉ちゃんが誰かに笑うの、嫌だ」真帆はそっと三男の方へ向き直る。真帆「……ねぇ三男」三男「なに」真帆「私たちって……どうなるんだろうね」三男はゆっくり、真帆の手に触れた。三男「……姉ちゃんが嫌じゃなければ、もっと近くにいたい」真帆は少しだけ笑う。真帆「……嫌じゃないよ」二人の手が、静かに重なった。その瞬間、“距離”は決定的に変わった。■ 第20話「触れた手の温度が、全部を変えた」リビングに残されたのは、真帆と俺だけだった。家族は気を利かせたつもりらしいけど、正直、逃げ出したかった。でも――真帆が隣に座った瞬間、逃げるという選択肢は消えた。真帆「三男」三男「……なに」声が震えていた。自分でもわかる。真帆「私ね、佐伯くんのこと……嫌いじゃないよ」胸が、一瞬で冷たくなる。(……そうだよな。佐伯くんは優しいし、ちゃんと真帆を見てる)でも次の言葉が、その冷たさを一気に溶かした。真帆「でも……三男のこと考える時間の方が、ずっと長い」心臓が跳ねた。(……俺?俺のこと?)真帆は続ける。真帆「三男が誰かに取られたら嫌だって思った」その瞬間、息が止まった。(……姉ちゃん)真帆の横顔は、夕方よりもずっと近くて、ずっと柔らかかった。三男「姉ちゃん……」言葉が喉でつかえる。(好きとか、恋とか、そんな簡単な言葉じゃ足りない)真帆「うん」三男「俺……姉ちゃんが誰かに笑うの、嫌だ」真帆は驚いたように目を見開いたあと、少しだけ笑った。真帆「……私もだよ」胸の奥が、じんわり熱くなる。真帆がそっと、俺の方へ向き直った。真帆「ねぇ三男」三男「……なに」真帆「私たちって……どうなるんだろうね」どうなるかなんて、わからない。でも――わからないからこそ、言わなきゃいけない言葉があった。三男「……姉ちゃんが嫌じゃなければ、もっと近くにいたい」真帆は少しだけ笑って、俺の手に触れた。真帆「……嫌じゃないよ」その瞬間、世界が静かになった。時計の音も、外の車の音も、全部遠くなった。触れた手の温度だけが、はっきりと残った。(……ああ。もう戻れない)そう思った。真帆は手を離さなかった。俺も離せなかった。三男(心の声)(姉ちゃん。俺はずっと、ここにいるよ)声にはしない。でも、確かにそう思った。そして――この夜を境に、俺たちの距離は“元には戻らない”とはっきりわかった。■ 第21話「触れた手の温度と、翌日のすれ違い」リビングに残されたのは、三男と私だけだった。家族が気を利かせたつもりなのはわかるけど、正直、逃げたかった。でも――三男が隣に座った瞬間、逃げる理由は消えた。三男「……なに」真帆「三男、昨日のこと……」声が震えていた。自分でも驚くくらいに。三男は、私の言葉を聞くたびに少しずつ表情を変えていった。真帆「佐伯くんのこと、嫌いじゃないよ」三男の目が揺れた。胸が痛んだ。(……あ、これ言っちゃダメだったかな)でも、本当に言いたかったのはその先だった。真帆「でも……三男のこと考える時間の方が、ずっと長い」三男の呼吸が止まった気がした。(あ、これ……言ってよかったんだ)胸の奥が、じんわり熱くなる。真帆「三男が誰かに取られたら嫌だって思った」言った瞬間、自分の心の形がはっきりした。三男「……姉ちゃん」その声が、いつもより低くて、いつもより近かった。そして――三男がそっと、私の手に触れた。温かかった。驚くほど。真帆(心の声)(……ああ、もう戻れない)そう思った。目が覚めた瞬間、昨日の手の温度が蘇った。(……どうしよう)嬉しい。でも、怖い。三男の顔を見たら、昨日の続きみたいになってしまいそうで。教室に入った瞬間、ゆかりが叫ぶ。ゆかり「真帆!!なんか今日、顔赤くない!?」真帆「赤くない」姫「心拍数が昨日より高い」真帆「測るな!!」ゆかりはニヤニヤしている。ゆかり「三男くんと何かあったでしょ」真帆「……っ、なにもない」姫「反応速度が“図星”」真帆「やめて!!」(……言えるわけない)校門を出ると、三男が待っていた。でも――昨日より距離が遠い。三男「……帰ろ」真帆「うん」歩き出す。沈黙が、昨日より重い。真帆「三男、昨日のこと……」三男「忘れていいよ」真帆「……え?」三男「姉ちゃん、困ってるなら……忘れていい」胸が、ぎゅっと締めつけられた。(困ってなんかないのに)真帆「……三男は、忘れたいの?」三男「……わかんない」その言葉が、昨日よりずっと遠く感じた。真帆(心の声)(……なんで、こんなに遠いの)昨日あんなに近かったのに。家に帰っても、三男は目を合わせてくれなかった。真帆(心の声)(……私、何か間違えた?)昨日の温度が、今日の冷たさに変わっていく。真帆(心の声)(近づいたと思ったのに……どうしてすれ違うんだろ)静かな夜が、昨日とは違う意味で胸に刺さった。■ 第22話「すれ違いの理由、触れ直す手」昨日の冷たさがまだ胸に残っている。校門で三男を見つけた瞬間、胸がきゅっと締まった。真帆「……帰ろ」三男「うん」歩き出す。沈黙が、昨日より重い。真帆「三男、昨日のこと……」三男「忘れていいよ」その言葉が、また胸に刺さる。真帆「……三男は、忘れたいの?」三男「……わかんない」(わかんない、じゃないよ……昨日あんなに近かったのに)真帆は言葉を飲み込んだ。三男(心の声)(忘れたいわけない。でも……姉ちゃんが困ってるなら、俺が距離を置くべきだと思った)真帆が困った顔をした瞬間、胸が痛んだ。(俺のせいで困らせたくない)だから“忘れていい”と言った。でも――(言った瞬間、俺の方が苦しくなった)真帆「……三男」三男「なに」真帆は深呼吸して、勇気を振り絞った。真帆「昨日のこと……困ってないよ」三男「……え?」真帆「困ってない。むしろ……嬉しかった」三男の目が揺れる。真帆「三男が“近くにいたい”って言ってくれたの、ずっと残ってる」三男「……姉ちゃん」真帆「だから……忘れたくない」沈黙。でも、昨日とは違う沈黙。三男(心の声)(……よかった)喉の奥が熱くなる。三男「俺……姉ちゃんが困ってると思って……距離置いた方がいいのかなって……」真帆「困ってないよ。むしろ……距離置かれる方が困る」三男は息をのむ。三男「……ごめん」真帆「謝らなくていいよ」二人の影が、夕暮れの道で重なった。真帆はそっと、三男の袖をつまんだ。真帆「ねぇ三男」三男「……なに」真帆「昨日みたいに……手、つないでいい?」三男の目が大きく開く。三男「……いいの?」真帆「うん。忘れたくないって言ったでしょ」三男はゆっくり、真帆の手を取った。温かい。昨日と同じ温度。でも――昨日よりずっと安心する温度。家に帰る道、二人は手を離さなかった。三男「姉ちゃん」真帆「なに」三男「俺……昨日より、もっと近くにいたい」真帆は少しだけ笑う。真帆「……私もだよ」すれ違いは、静かに、確かに解けた。そして二人の距離は、昨日よりも深く、昨日よりも温かくなった。■ 第23話「祝賀ムード暴走家族、そして逃げ場のない二人」階段を降りた瞬間、真帆は違和感に気づいた。テーブルの上には・クラッカー・紙吹雪・“おめでとう”の文字(誰が書いたのか不明)・母の手作りケーキ(※朝から)真帆「……何これ」母「真帆ちゃん、おめでとう〜」真帆「何が!?」長男「昨日、三男と仲直りしたでしょ」真帆「なんで知ってるの」父「三男の顔が“進展あり”だった」真帆「表情筋で判断するな!」三男は真っ赤になって俯いている。三男「……やめて」母「照れてる〜かわいい〜」長男「三男、昨日手つないだ?」真帆「なんでそこまで知りたいの!?」父は腕を組んでうなずく。父「よし、祝賀会を始める」真帆「始めるな!!」母「まずはケーキね〜」真帆「朝からケーキ食べないよ!」長男「じゃあ俺が食べる」父「三男、真帆の隣に座れ」三男「……いや」父「座れ」三男「……はい」真帆「なんで命令形なの」母はにこにこしながら言う。母「真帆ちゃん、三男くんのこと好きなんでしょ〜」真帆「ちょっ……!」長男「三男も真帆のこと好きだしね」三男「ちょ、ちょっと……!」父「交際前祝いだ」真帆「まだ付き合ってない!!」家族のテンションは最高潮。三男は真っ赤になって、真帆の横で固まっている。三男「……姉ちゃん、ごめん」真帆「なんで謝るの」三男「俺のせいで……こうなってる」真帆「三男のせいじゃないよ。家族が勝手に暴走してるだけ」父「聞こえてるぞ」母「暴走じゃなくて応援よ〜」長男「祝賀ムードだよ」三男「……ほんとにやめて」でも、真帆は気づいていた。(……三男、ちょっと嬉しそう)ほんの少しだけ、口元が緩んでいた。父「では、二人の今後の計画を話し合おう」真帆「話し合うな!!」母「まずはデートね〜」真帆「行かない!!」長男「いや行くでしょ」真帆「行かない!!」三男「……行きたい」真帆「えっ」家族「(聞こえてるぞ)」三男「……っ、違う……違わないけど……違う……」真帆「どっちなの」父「よし、デート計画を立てる」真帆「立てるな!!」騒ぎの中、三男がぽつりと言う。三男「……姉ちゃん」真帆「なに」三男「俺……昨日のこと、嬉しかった」真帆は一瞬で顔が熱くなる。真帆「……っ、三男……」家族「(聞こえてるぞ)」真帆「聞くな!!」三男は続ける。三男「姉ちゃんが……俺のこと考えてくれてたの、嬉しかった」真帆は俯く。(……ずるいよ、そういうの)でも、胸の奥がじんわり温かくなる。父「よし、二人は順調だ」母「おめでとう〜」長男「交際前祝い、成功」真帆「成功じゃない!!」三男「……ほんとにやめて」でも、真帆も三男も、どこか笑っていた。家族の暴走は迷惑だけど、その騒がしさの中で“二人の距離が確かに変わった”ことだけは誰よりも家族が気づいていた。■ 第24話「気づかれる距離、気づいてしまう想い」真帆が靴を履いていると、三男が少しだけ緊張した顔で声をかけてきた。三男「……姉ちゃん、今日……寄り道して帰らない?」真帆「寄り道?」三男「……うん。デートじゃないけど……一緒に行きたい場所がある」“デートじゃないけど”その言い方が、逆に胸をくすぐる。真帆「……いいよ」三男の表情が、ほんの少しだけ緩んだ。真帆と三男が並んで歩き出す。その距離は、以前より自然で、以前より近い。佐伯は校門の影からその姿を見ていた。佐伯(心の声)(……あれ)二人の影が重なったり離れたりする。そのリズムが、“家族”の距離ではなかった。佐伯(心の声)(小川さん……昨日より、三男くんの方を見てる)胸の奥が、静かに痛む。三男が連れてきたのは、学校から少し離れた小さな公園だった。夕暮れの光が、ブランコの鎖を金色に染めている。真帆「ここ、久しぶり」三男「……姉ちゃん、小さい頃よく来てたから」真帆「覚えてたの?」三男「……全部」真帆の胸が、ふっと温かくなる。二人は並んでブランコに座る。風が頬を撫でる。三男「……姉ちゃん」真帆「なに?」三男「昨日のこと……嬉しかった」真帆「……私もだよ」沈黙。でも、心地いい沈黙。偶然、公園の前を通った佐伯は、ブランコに並んで座る二人を見つけた。夕暮れの光の中で、真帆が三男の方へ少しだけ寄りかかっている。佐伯(心の声)(……ああ)その光景は、“家族”ではなく“誰かを選んだ二人”の距離だった。佐伯(心の声)(小川さん……もう、俺の入る隙間はないんだ)胸が締めつけられる。でも、その痛みは静かで、どこか納得してしまう痛みだった。真帆「三男」三男「……なに」真帆「今日、誘ってくれて嬉しかったよ」三男は少し照れたように俯く。三男「……姉ちゃんと一緒にいたかっただけ」真帆「うん。私も」風が吹き、二人の影が重なる。真帆はそっと、三男の袖をつまんだ。真帆「……また来ようね」三男「……うん。何回でも」その言葉は、“デート未満”を“特別な時間”に変えるには十分だった。佐伯は公園から離れながら、夕暮れの空を見上げた。佐伯(心の声)(小川さん……幸せそうだったな)悔しさでも、嫉妬でもない。ただ、静かに胸に落ちる痛み。佐伯(心の声)(……あの距離は、俺には作れない)そう気づいた瞬間、彼は初めて“諦め”という言葉を自分の中で受け入れた。■ 第25話「諦めきれないのに、もう届かない」校舎を出た瞬間、佐伯は二人の姿を見つけた。真帆と三男。昨日より近い距離で歩いている。真帆が三男の袖をつまんで、三男が少し照れたように笑っている。佐伯(心の声)(……また、距離が近くなってる)胸の奥が、静かに沈んだ。佐伯は一歩踏み出そうとして、足が止まった。(声をかけたら……邪魔になる気がした)真帆の横顔は、どこか安心していて、どこか甘えていて、“誰かの隣”にいる顔だった。佐伯(心の声)(俺の前では……あんな顔、しなかった)その事実が、思った以上に胸に刺さる。二人が角を曲がって見えなくなっても、佐伯はしばらくその場に立ち尽くした。佐伯(心の声)(……小川さんのこと、まだ諦められない)昨日の笑顔が、夕暮れの光の中で揺れる。佐伯(心の声)(もっと話したかった。もっと知りたかった)でも、その“もっと”が叶わない気がしていた。帰り道、佐伯は偶然、公園の前を通りかかった。そこで見たのは――ブランコに並んで座る真帆と三男。真帆が三男の袖をつまんで、三男がその手をそっと握り返す。夕暮れの光が、二人の影をひとつにしていた。佐伯(心の声)(……ああ)胸の奥が、静かに崩れていく。(もう……俺の入る隙間はない)佐伯は公園から離れながら、空を見上げた。佐伯(心の声)(小川さん……幸せそうだったな)その光景は、悔しさよりも、嫉妬よりも、“納得”に近かった。でも――佐伯(心の声)(それでも……諦めきれないんだよ)胸の奥に残った小さな痛みが、まだ消えない。に向かっても、教科書の文字が頭に入らない。佐伯(心の声)(小川さん……俺、どうしたらよかったんだろ)もっと早く声をかけていたら。もっと勇気を出していたら。そんな“もしも”ばかりが浮かぶ。佐伯(心の声)(……でも、もう遅いのかな)窓の外の夜風が、静かに揺れていた。■ 第26話「それでも、伝えたかった」真帆と三男が並んで歩く姿を見てから、佐伯はずっと胸の奥がざわついていた。(もう届かない。でも……このまま何も言わずに終わるのは、もっと嫌だ)告白じゃない。奪うつもりもない。ただ――“ちゃんと向き合いたい”だけだった。真帆が帰り支度をしていると、佐伯は静かに声をかけた。佐伯「小川さん、少し……いい?」真帆「あ、うん」三男は少し離れた場所で待っている。その視線が痛いほどわかる。(ごめん。でも、これだけは言わせてほしい)二人きりになった瞬間、佐伯は言葉を失った。真帆「どうしたの?」佐伯「……うまく言えないんだけど」夕暮れの光が、真帆の横顔を柔らかく照らす。(やっぱり、綺麗だな)でも、その光は自分のものじゃない。佐伯「小川さん……最近、すごくいい顔してる」真帆「え?」佐伯「前より……ずっと、柔らかい顔」真帆は少し照れたように笑う。佐伯「……誰かの隣にいる顔だなって思った」真帆の表情が、一瞬だけ揺れた。佐伯「それが……三男くんなんだろうなって」真帆「……うん」その“うん”が、胸に静かに落ちた。痛いけど、どこか救われる痛みだった。佐伯「小川さん。俺……君のこと、ちゃんと好きだったよ」真帆「……佐伯くん」佐伯「でも、奪うつもりはない。君が誰を選ぶのかは……君が決めることだから」真帆は目を伏せる。佐伯「ただ……君が幸せそうで、よかった」それは嘘じゃなかった。本当に、そう思った。真帆が三男のもとへ戻る。三男は不安そうに、でも真帆を信じるように立っていた。二人が並んだ瞬間、距離が自然に近づく。佐伯(心の声)(……ああ。やっぱり、俺の入る隙間はない)でも、その光景を見て初めて、胸の痛みが少しだけ軽くなった。佐伯は空を見上げた。(小川さん。ありがとう)言葉にはしない。でも、心の中でそっと呟いた。そして――彼はようやく、前に進む準備ができた。■ 第27話「問い詰められて、気づいてしまう」昨日の“デート未満”の帰り道。三男の袖をつまんだ感触が、まだ指先に残っている。真帆(心の声)(……なんで、こんなに思い出すんだろ)胸の奥が、じんわり熱い。教室に入った瞬間、ゆかりが机を叩いて立ち上がる。ゆかり「真帆!!昨日、何があった!!」真帆「な、なんにもないよ」姫「嘘。表情筋が“進展あり”」真帆「表情筋で判断するな!!」ゆかりは真帆の肩を掴む。ゆかり「三男くんとどこ行ったの!?なんでそんなに顔赤いの!?」真帆「赤くない!」姫「心拍数、昨日より高い」真帆「測るな!!」ゆかりは目を細める。ゆかり「真帆……三男くんのこと、好きになってきてるでしょ」真帆「……っ」その瞬間、胸が跳ねた。否定しようとしたのに、言葉が出てこない。姫は静かに言う。姫「反応速度が“図星”」真帆「やめて!!」ゆかりは真帆の机に身を乗り出す。ゆかり「ねぇ真帆。佐伯くんのこと考えるより、三男くんのこと考える時間の方が長いんじゃない?」真帆「……っ」図星だった。真帆(心の声)(なんで……なんで三男のことばっかり思い出すの)姫が静かに言う。姫「真帆は“三男くんに取られたくない”と感じている」真帆「……っ、なんでわかるの」姫「表情筋」真帆「表情筋で全部わかるな!!」でも、否定できなかった。校門で三男が待っている。昨日より少しだけ近い距離で。三男「……帰ろ」真帆「うん」その“うん”が、昨日より自然に出た。歩きながら、真帆はふと三男の横顔を見る。(……なんでこんなに安心するんだろ)佐伯と話した時の“緊張”とは違う。三男といる時の“落ち着き”とも違う。もっと、深いところに触れる感覚。三男がふと、真帆の方を向く。三男「……姉ちゃん、今日なんか変」真帆「変じゃないよ」三男「変」真帆「変じゃないってば」でも、胸の奥はずっとざわついていた。真帆(心の声)(……私、三男のこと……)言葉にしようとした瞬間、心臓が跳ねた。(……まだ言えない)でも、確かに何かが変わっている。家に帰っても、ゆかりの言葉が頭から離れない。「三男くんのこと、好きになってきてるでしょ」真帆(心の声)(……好き、なのかな)胸に手を当てる。鼓動が速い。(佐伯くんの時とは違う。三男の時は……もっと、深いところが揺れる)気づきたくなかった気持ちが、静かに形になっていく。真帆(心の声)(……私、三男のこと……)言葉にならないまま、胸の奥が熱くなる。■ 第28話「正式デート推進家族、逃げ場なし」階段を降りた瞬間、真帆は気づいた。父は新聞を逆さに持ち、母はエプロンの紐を結び忘れ、長男は妙にニヤニヤしている。真帆「……何その顔」母「真帆ちゃん、今日の予定は?」真帆「学校だけだけど」長男「放課後は?」真帆「帰るけど」父「三男と?」真帆「なんでそうなるの」三男はテーブルの端で固まっている。三男「……やめて」母「照れてる〜かわいい〜」長男「昨日の帰り、手つないでた?」真帆「なんで知ってるの!?」父「三男の顔が“つないだ”だった」真帆「表情筋で判断するな!!」父が咳払いをして、妙に真面目な顔で言う。父「真帆。三男。そろそろ正式にデートしたらどうだ」真帆「しない!!」三男「……っ、いや……その……」母「三男くん、行きたいんでしょ〜?」三男「行きたい……けど……」真帆「えっ」長男「ほら、三男もこう言ってるし」真帆「言ってない!!」三男「言った……」真帆「言ったの!?」父は満足げにうなずく。父「よし、決まりだ」真帆「決めるな!!」母「まずは服ね〜。真帆ちゃん、可愛いワンピース持ってる?」真帆「持ってない!!」長男「じゃあ買いに行こう」真帆「行かない!!」父「三男、どこに行きたい」三男「……姉ちゃんが行きたいところ」真帆「ずるい言い方しないで!!」母はメモ帳を取り出す。母「映画、カフェ、公園、ショッピング……」真帆「全部やめて!!」長男「じゃあ全部やろう」真帆「やらない!!」三男は真っ赤になりながらも、どこか嬉しそうに俯いている。(……ほんとに行きたいんだ)その表情に、真帆の胸が少しだけ熱くなる。父「三男。男なら堂々と誘え」三男「……無理」母「大丈夫よ〜真帆ちゃんも嬉しいわよ〜」真帆「言ってない!!」長男「でも顔が“嬉しい”だよ」真帆「表情筋で判断するな!!」三男は小さく息を吸って、真帆の方を向く。三男「……姉ちゃん」真帆「なに」三男「今度……どこか行きたい」真帆「……っ」家族「(聞こえてるぞ)」真帆「聞くな!!」でも、胸の奥がじんわり温かくなる。父「よし、正式デート決定だ」真帆「決定じゃない!!」母「真帆ちゃん、楽しんできてね〜」長男「三男、頑張れ」三男「……うん」真帆は顔を覆う。(……なんでこんな流れに)でも、三男の横顔を見ると――(……嫌じゃない)その気持ちに気づいた瞬間、胸がまた熱くなる。真帆「……三男」三男「なに」真帆「ほんとに……行きたいの?」三男「行きたい。姉ちゃんと一緒にいたい」真帆「……っ」家族の騒がしさとは違う、静かで真っ直ぐな言葉。真帆「……じゃあ、考える」三男「……うん」その“うん”が、昨日よりずっと嬉しそうだった。
1
9
mw_me
|
04/30
|
My TORQUE, My Life