TORQUEトーク

2026/04/28 14:39

第1話「ここにいるよ」
朝の小川家。
真帆がリビングに入ると、父が新聞を読みながら言った。

父「真帆、昨日帰りが遅かったな。どこに行っていた」
真帆「友達とカフェ。普通のやつ」
父「……そうか。なら良い」

(※“なら良い”の声が0.5トーン上がっている。甘い)

母がトーストを焦がしながら振り返る。

母「真帆ちゃん、今日お弁当いらないんだっけ?」
真帆「いるよ。昨日も言ったよ」
母「あら〜、じゃあ急いで作るね。焦げてるけど気にしないでね」
真帆「気にするよ」

長男がふらっと現れ、焦げトーストを見て言う。

長男「お、今日のは“炭火風”だね。香ばしい」
真帆「褒めてるようで褒めてないからね、それ」

三男が真帆の肩をぽんと叩く。

三男「姉ちゃん、今日も大変だね。俺、弁当半分あげるよ」
真帆「優しさが沁みる…」

 - 学校-
ゆかり「真帆〜!昨日のカフェの写真、めっちゃ盛れてたじゃん!」
真帆「いや、あれは姫が勝手にフィルター強めにしただけ」
姫「冷静に言うと、あれは“盛れた”というより“別人”」
真帆「おい」

ゆかりがスマホを見せながら言う。

ゆかり「でもさ、真帆ってさ、なんか“ここにいるよ感”あるよね」
真帆「どういう感?」
姫「存在感は薄くないのに、圧がないというか…」
ゆかり「そうそう。気づいたら隣にいるタイプ」
真帆「幽霊みたいに言うな」

そこへ三男からメッセージ。

《姉ちゃん、弁当忘れてる。今、学校の前にいる》

真帆「……やっぱり私、存在感薄いのかな」
姫「弁当忘れるのは存在感じゃなくて注意力」
ゆかり「ほら、やっぱり“ここにいるよ”って言わないと気づかれないタイプ」
真帆「だから幽霊扱いやめて」

校門の外で三男が手を振っていた。

三男「姉ちゃん、ここにいるよー」
真帆「……あんたに言われるとなんか負けた気がする」

第2話「気づいてほしいだけ」
■ 朝 ― 小川家の台所
母が味噌汁をかき混ぜながら、ふとつぶやく。

母「真帆ちゃんってさ、静かにいるのに…なんか安心するよねぇ」
父「うむ。真帆がいると家が落ち着く」
長男「わかる。空気清浄機みたいな存在」
真帆「家電扱いやめて」

三男が笑いながら、真帆の前に湯気の立つお椀を置く。

三男「姉ちゃん、今日も頑張れって味噌汁」
真帆「……そういうのが一番沁みるんだよ」

父が新聞をたたみ、真帆をじっと見る。

父「真帆。お前はもっと主張していいんだぞ」
真帆「……なんで急に」
父「昨日、弁当を忘れたと聞いた」
真帆「それは私の注意力の問題でしょ」

長男「いや、存在感の問題かも」
真帆「お前は黙れ」

■ 学校 ― 昼休み
ゆかりが机に突っ伏しながら言う。

ゆかり「真帆ってさ、もっと“ここにいるよ!”ってアピっていいと思うんだよね」
真帆「アピールって何すればいいの」
姫「例えば、声を大きくするとか」
真帆「体育会系じゃないんだから」

ゆかりが急に立ち上がる。

ゆかり「よし、真帆の“存在感強化計画”スタート」
真帆「やめて」
姫「ゆかり、あなたが火をつけて真帆が消す流れになる予感」
ゆかり「それはそれで面白いじゃん」
真帆「面白さを求めるな」

そこへ三男からまたメッセージ。

《姉ちゃん、今日の帰り迎えに行こうか?》

真帆「……なんであんたはそんなに気づくの」
姫「三男くん、観察力が高い」
ゆかり「姉ちゃん大好きなんだよ、あれは」
真帆「やめろ、照れる」

■ 放課後 ― 校門前
三男が自転車にまたがりながら手を振る。

三男「姉ちゃん、ここにいるよ」
真帆「……その言い方、やめて」
三男「なんで」
真帆「なんか…負けた気がするから」

三男は少しだけ笑って、真帆の荷物を受け取る。

三男「姉ちゃんはさ、気づかれないんじゃなくて、
“気づいてほしい人にだけ届くタイプ”なんだと思うよ」

真帆「……そんなタイプある?」
三男「あるよ。俺にはちゃんと届いてるし」

真帆は少しだけ目をそらす。

ゆかりと姫が後ろからひょこっと顔を出す。

ゆかり「うわ、いい兄弟」
姫「これは勝てない」
真帆「やめて、恥ずかしいから」

三男「姉ちゃん、帰ろ」
真帆「……うん」

夕方の風が少しだけ優しく吹く。
真帆は思う。

(“ここにいるよ”って、
言われるのも悪くないかもしれない)

■ 第3話「家族会議(本人不在)」
■ 夜の小川家 ― リビング
テレビの音が小さく流れる。
真帆は自室で課題中。
リビングには父・母・長男の3人だけ。

母がぽつりと言う。

母「ねぇ、真帆ちゃんって…最近ちょっと大人っぽくなったよねぇ」
父「うむ。落ち着きが増した」
長男「もともと落ち着いてるけどね。俺とは違って」

父「お前は落ち着きが無さすぎる」
長男「父さんは厳しすぎる」
母「私は天然すぎる」
父・長男「それは認める」

母が笑いながら続ける。

母「でもさ、真帆ちゃんって“ここにいるよ”って言わなくても、
ちゃんと家に馴染んでるよねぇ」
父「……あの子は昔からそうだ」

父は少しだけ姿勢を正す。

父「幼稚園の頃、発表会で誰よりも緊張していた。
だが、誰よりも周りを見ていた」
長男「へぇ、父さんそんなの覚えてるんだ」
父「当然だ。娘だからな」

母がにこにこしながら言う。

母「真帆ちゃん、控えめだけど…
気づくと一番近くにいるのよねぇ」
長男「わかる。気づいたら隣に座ってる」
父「それはお前が気づいていないだけだ」

長男「父さん、今日ちょっと辛口じゃない?」
父「事実を述べただけだ」

■ 話題は“真帆の将来”へ
母「真帆ちゃん、将来どんな仕事するのかなぁ」
長男「なんでもできそうだけどね。
人の話を聞くの上手いし」
父「責任感もある。だが…」
母「だが?」
父「自己主張が足りん」
長男「それは父さんの遺伝じゃない?」
父「違う。私は主張している」
母「厳格にね」
長男「圧でね」

父「……お前たち、今日はやけに攻めてくるな」

母がふっと真顔になる。

母「でもね、真帆ちゃんは“言わない優しさ”があるのよ」
長男「それはわかる」
父「……ああ。あの子は、家族の空気をよく見ている」

父は少しだけ照れたように咳払いする。

父「真帆には…もっと自信を持ってほしい。
家族として、そう思うだけだ」

母「うんうん」
長男「俺も賛成」

■ そこへ、真帆がひょこっと顔を出す
真帆「……あの、聞こえてるんだけど」
父「む」
母「あら〜、全部聞かれちゃった」
長男「まぁ、いいんじゃない?家族会議だし」

真帆「なんで私の話で盛り上がってるの」
父「家族だからだ」
母「心配だからよ〜」
長男「愛されてるからだね」
真帆「……なんか、恥ずかしいんだけど」

父が少しだけ優しい声で言う。

父「真帆。お前はここにいるだけでいい」
母「そうそう。そこにいるだけで安心するのよ」
長男「空気清浄機みたいにね」
真帆「最後の一言いらない」

家族の笑い声が、夜のリビングに静かに広がる。

■ 第4話「気づく人」
■ 放課後 ― 三男の帰り道
夕方の光が薄く差し込む住宅街。
三男は自転車を押しながら歩いている。
真帆は部活で遅くなる日。今日は一人だ。

三男(心の声)
(姉ちゃん、今日はちゃんと弁当持っていったかな…
いや、朝確認したし大丈夫か)

ふと、ポケットのスマホが震える。
真帆からのメッセージ。

《今日、帰り遅くなる。夕飯いらないかも》

三男は少し笑う。

三男(心の声)
(こういう連絡だけは忘れないんだよな)

■ 家に帰ると ― 小川家の玄関
母がエプロン姿で出迎える。

母「あら〜三男くん、おかえり〜。真帆ちゃんは?」
三男「部活。今日は遅いって」
母「そっかぁ。じゃあ三男くんの好きな煮物、多めにしとくね」
三男「ありがとう」

父がリビングから顔を出す。

父「三男。真帆は元気か」
三男「普通。いつも通り」
父「そうか。なら良い」

(※父の“なら良い”は、真帆の時より0.3トーン低い)

長男がソファでゴロゴロしながら言う。

長男「三男ってさ、真帆のことよく見てるよね」
三男「……まぁ、姉ちゃんだし」
長男「俺より見てる」
三男「兄ちゃんは見なさすぎ」

長男「それは否定できない」

■ 夜 ― 三男の部屋
机の上には、真帆が昔描いた落書きの紙が貼ってある。
“家族の似顔絵”。
三男だけ妙に丁寧に描かれている。

三男(心の声)
(姉ちゃん、昔から俺のことだけ妙に気にしてくれてたよな…
忘れ物したら一緒に戻ってくれたり、
熱出したらずっと横にいてくれたり)

(だから、今度は俺の番なんだよ)

スマホが光る。
真帆からのメッセージ。

《帰る。駅ついた》
《今日は忘れ物してないよ》

三男は思わず吹き出す。

三男(心の声)
(わざわざ報告してくるあたり、かわいいな)

《迎え行く》
とだけ返す。

■ 駅前
真帆が改札を出ると、三男が自転車にまたがって待っている。

真帆「……なんで来てるの」
三男「迎えに行くって言った」
真帆「別に一人で帰れるよ」
三男「知ってる。でも、来た」

真帆は少しだけ目をそらす。

真帆「……ありがと」
三男「どういたしまして」

二人は並んで歩き出す。
街灯の光が静かに足元を照らす。

三男(心の声)
(姉ちゃんは“気づいてほしい人にだけ届くタイプ”
俺はそれに気づける人でいたい)

真帆「ねぇ」
三男「ん?」
真帆「今日、ちゃんとここにいるよって言わなかったね」
三男「……言わなくても、姉ちゃんがいるのわかるから」

真帆「……っ、そういうの急に言うのやめて」
三男「事実」

真帆は照れ隠しに前を向く。
三男は静かに笑う。

■ 第5話「小川家、崩壊寸前(でも平和)」
■ 日曜の朝 ― 小川家リビング
母が突然叫ぶ。

母「みんなー!大変よー!!」
父「何事だ」
長男「地球滅亡?」
三男「姉ちゃんの忘れ物?」
真帆「なんで私が原因前提なの」

母は指をさす。

母「冷蔵庫が……空っぽ!!」
父「……それは大変だ」
長男「いや、母さんが買い忘れただけでしょ」
母「そうなのよ〜」
真帆「自白早いな」

■ 緊急家族会議(議題:買い出し)
父「よし、買い出しに行く。全員だ」
長男「全員?なんで?」
父「家族の危機だからだ」
真帆「冷蔵庫が空なだけで危機扱いなの?」
三男「父さん、こういう時だけ団結力すごいよね」

母が手を叩く。

母「じゃあ、買い物リスト作るわよ〜!」
長男「母さん、まずは冷蔵庫の中身を確認しよう」
母「空っぽよ」
長男「……だよね」

真帆「じゃあ私、メモする」
父「真帆、頼んだ」
三男「姉ちゃんの字、読みやすいから助かる」
長男「俺の字は?」
真帆「読めない」
長男「ひどい」

■ スーパーへ向かう道中
家族5人がぞろぞろ歩く。
近所の人が二度見するレベルの団体感。

母「みんなでお買い物なんて久しぶりねぇ〜」
父「たまには良いだろう」
長男「父さん、ちょっと楽しそうじゃん」
父「……別に」
三男「(楽しそうだな)」
真帆「(楽しそうだな)」

■ スーパー到着 ― カオス開始
母「まずは野菜よ〜!」
長男「肉でしょ」
父「米が先だ」
三男「調味料切れてたよ」
真帆「ちょっと待って、順番決めよう」

しかし誰も聞かない。

父は米コーナーへ直行。
母は野菜売り場でテンションMAX。
長男は肉の前で吟味し始める。
三男は調味料を静かにカゴへ。
真帆は全員を追いかけて走り回る。

真帆「ちょっと!みんな勝手に動かないで!」
長男「真帆、これステーキどう思う?」
真帆「知らないよ!」
母「真帆ちゃん、このナス可愛くない?」
真帆「ナスに可愛いとかある?」
父「真帆、米はどれが良い」
真帆「知らないってば!」
三男「姉ちゃん、これでいい?」
真帆「三男だけは正しい!」

■ レジ前
カゴが3つに増えている。

真帆「……なんでこんなに増えてるの」
長男「気づいたら増えてた」
母「気づいたら入れてた」
父「気づいたら必要だった」
三男「気づいたら俺がまとめてた」
真帆「三男がいなかったら破綻してたよ、この家」

■ 帰り道
買い物袋を両手に持ちながら歩く家族。

母「楽しかったわねぇ〜」
長男「俺、肉買えて満足」
父「米も買えた」
三男「調味料も補充できた」
真帆「……私は疲れた」

父がふっと言う。

父「真帆。お前がまとめてくれたから助かった」
母「ほんとほんと〜」
長男「真帆がいないとカオスだね」
三男「姉ちゃんが一番頼りになる」

真帆「……なんか、そう言われると悪くないかも」

家族の笑い声が、夕方の道に広がる。

■ 第6話「火をつける人と、消し忘れる人」
◆ 昼休み ― 教室
ゆかりが突然、机をバンッと叩く。

ゆかり「真帆!大変!めっちゃ大変!」
真帆「何が」
姫「ゆかり、まず深呼吸」
ゆかり「してる暇ないってば!」

真帆「(だいたい大したことじゃないんだよな…)」

ゆかりはスマホを突き出す。

ゆかり「これ見て!“真帆が告白された”って噂が流れてる!」
真帆「は?」
姫「……誰が流したの」
ゆかり「私」
真帆「お前かよ!!」

ゆかりは胸を張る。

ゆかり「だってさ、真帆って存在感薄いって言われがちじゃん?」
真帆「言われがちだけども」
ゆかり「だから、ちょっと話題作りを…」
姫「火をつけたのね」
ゆかり「で、自分で消すつもりだったのに…」
真帆「だったのに?」
ゆかり「広がるの早すぎて追いつかない!」

真帆「だから言っただろ、やめろって!!」

◆ そこへ、姫の“冷静すぎるミス”が発動
姫「とりあえず、誤解を解くために掲示板に書き込んでおいた」
真帆「ありがとう姫。なんて書いたの?」
姫「“真帆は告白されていません。そもそも恋愛に興味がありません”」
真帆「興味はあるわ!!」
ゆかり「姫〜!冷静すぎて余計なこと言ってる〜!」
姫「事実だと思っていた」
真帆「勝手に決めるな!」

ゆかり「てかさ、姫の書き込みのせいで“真帆は恋愛に興味ない説”が広まってるよ」
真帆「なんでそうなるの!!」

◆ さらに追い打ち
クラスメイトA「真帆って恋愛興味ないんだって?」
クラスメイトB「ストイックだな〜」
クラスメイトC「逆にモテそう」
真帆「ちがうちがうちがう!!」

ゆかり「ほら〜、盛り上がってるじゃん」
真帆「盛り上がらなくていい!!」
姫「訂正してくる」
真帆「頼むから慎重にね」
姫「任せて」

(※嫌な予感しかしない)

◆ 数分後
姫が戻ってくる。

姫「訂正した」
真帆「なんて?」
姫「“真帆は恋愛に興味があります。特に年下の男子に”」
真帆「なんでそうなるの!!!」
ゆかり「姫〜!!情報が勝手に増えてる〜!!」
姫「三男くんと仲が良いから、てっきり」
真帆「それは家族!!」

◆ 放課後 ― 校門前
三男が迎えに来ている。

三男「姉ちゃん、今日なんか噂すごいよ」
真帆「……聞かないで」
三男「“年下好き説”ってやつ?」
真帆「聞くなって言った!!」

三男は笑いながら荷物を持つ。

三男「姉ちゃん、俺は知ってるから大丈夫」
真帆「何を」
三男「姉ちゃんは普通に恋愛興味あるし、
年下とか関係なく、ちゃんと人を見るタイプ」

真帆「……なんでそんなにわかるの」
三男「姉ちゃんだから」

真帆は耳まで赤くなる。

◆ 帰り道
ゆかりと姫が後ろから追いついてくる。

ゆかり「真帆〜!ごめんね〜!でも楽しかった!」
真帆「反省しろ」
姫「私は訂正の仕方を学んだ」
真帆「学んでないよ」

三男「……姉ちゃん、ここにいるよって言わなくても、
ちゃんとみんな見てるよ」

真帆「……今日は見られすぎだよ」

ゆかり「でもさ、真帆ってさ、
“騒がしい時ほど存在感出るタイプ”だよね」
姫「確かに」
三男「うん」
真帆「……褒められてるのか?」

三人「褒めてる」

真帆「……ならいいけど」

夕方の風が、少しだけ優しく吹いた。

■ 第7話「それぞれの午後」
◆ 前半:ゆかり&姫の友情回
(騒がしいのに、どこか温かい)

■ 放課後 ― 教室
真帆が帰り支度をしていると、
ゆかりと姫がなぜか向かい合って座っている。

真帆「……何してるの」
ゆかり「姫とね、話し合い」
姫「友情のメンテナンス」
真帆「そんな定期点検みたいに言うな」

ゆかりが真帆の腕をつかむ。

ゆかり「真帆も聞いて!姫がね、今日のプリント全部捨てたの!」
姫「捨てたのではなく、“捨ててしまった”」
真帆「それはミスだね」

ゆかり「でね、私が拾いに行ったの!」
姫「その途中でゆかりが転んだ」
ゆかり「姫が笑った」
姫「笑ってない。表情筋が揺れただけ」
真帆「それは笑ってる」

ゆかりが机に突っ伏す。

ゆかり「姫ってさ〜、冷静すぎてたまに心折れるんだよね」
姫「私は事実を述べているだけ」
真帆「それが問題なんだよ」

ゆかりはふっと顔を上げる。

ゆかり「でもさ、姫ってさ…
私が困ってると絶対助けてくれるんだよね」
姫「当然」
ゆかり「なんで?」
姫「友達だから」

ゆかりの顔が一瞬で赤くなる。

ゆかり「……そういうの急に言うのやめてよ」
姫「事実」
真帆「(三男と同じこと言ってる…)」

ゆかりは照れ隠しに姫の肩を叩く。

ゆかり「姫、ありがと。これからもよろしく」
姫「こちらこそ」
真帆「なんかいいな、こういうの」

二人の間に、
“騒がしいのに、妙に優しい空気”が流れていた。

◆ 後半:三男との静かな回
(光と影の間にある、静かな距離感)

■ 夕方 ― 帰り道
真帆が校門を出ると、
三男が自転車に寄りかかって待っている。

真帆「……また来てる」
三男「迎えに行くって言った」
真帆「言ってないよ」
三男「俺の中で言った」

真帆「勝手に決めるな」

三男は笑って、真帆の荷物を受け取る。

二人は並んで歩き出す。
夕方の光が長く影を伸ばす。

しばらく沈黙。
でも、気まずくない。

三男「今日、姉ちゃん楽しそうだった」
真帆「……わかるの?」
三男「わかるよ。声のトーンが違う」

真帆は少しだけ横を見る。

真帆「三男ってさ、なんでそんなに気づくの」
三男「姉ちゃんのことだから」
真帆「……それ、ずるい」

三男はふっと目を細める。

三男「姉ちゃん、今日さ…
なんか“ここにいるよ”って感じが強かった」

真帆「どういう意味?」
三男「ゆかりと姫と笑ってる時の姉ちゃんって、
ちゃんとそこに“いる”って感じがする」

真帆は歩みを少しだけ緩める。

真帆「……私、そんなに薄い?」
三男「薄くない。
ただ、静かだから見落とされやすいだけ」

真帆「……フォローになってる?」
三男「なってる。俺は好きだよ、そういうの」

真帆「……っ、急に言うなってば」

三男は何も言わず、
ただ隣で歩く速度を真帆に合わせる。

夕暮れの風が、
二人の間を静かに通り抜けていった。

■ 第8話「見えているもの、見えていないもの」
◆ 1. 放課後 ― 教室
真帆は黒板を消しながら、ふと手を止める。

(……私って、やっぱり“気づかれない”のかな)

ゆかりと姫は今日も騒がしい。
クラスの中心にいるわけじゃないけど、
二人は“見つけられる側”だ。

真帆は、静かに息を吐く。

(別に、嫌じゃないけど……
たまに、ちょっとだけ寂しい)

その瞬間、
姫がふっと真帆の横に立つ。

姫「真帆、今日の黒板の消し方、丁寧」
真帆「……え?」
姫「あなたのそういうところ、私は好き」
真帆「……急に何」

姫は淡々と続ける。

姫「真帆は“見つける側”だから。
見つけられにくいのは、役割の違い」
真帆「……役割?」

姫「そう。あなたは、誰かの影をそっと照らすタイプ」

真帆は返事ができない。
胸の奥が、少しだけ温かくなる。

◆ 2. 夕方 ― 校門前
三男がいつものように待っている。
でも今日は、少しだけ表情が違う。

真帆「……どうしたの?」
三男「姉ちゃん、今日……なんか元気なかった」

真帆は驚く。
自分でも気づいていなかったのに。

真帆「……わかるの?」
三男「わかるよ。
姉ちゃんの“声の間”が、いつもと違った」

真帆「声の……間?」
三男「うん。姉ちゃん、元気な時は、
言葉の後に“余韻”があるんだよ」

真帆「……そんなの、わかる?」
三男「わかる。俺はずっと見てるから」

真帆は目をそらす。

(……ずるいな、こういうの)

◆ 3. 帰り道 ― 夕暮れ
二人は並んで歩く。
影が長く伸びて、重なったり離れたりする。

真帆「ねぇ、三男」
三男「ん」
真帆「私って……やっぱり存在感薄い?」
三男「薄くない」

即答だった。

三男「ただ、静かなんだよ。
静かだから、雑な人には見えないだけ」

真帆「……雑な人?」
三男「兄ちゃんとか」
真帆「それはそう」

三男は少しだけ歩みを緩める。

三男「姉ちゃんはさ、
“気づく人にだけ届く存在感”なんだよ」

真帆「……それ、前にも言ってた」
三男「うん。でも今日は、
ちょっと意味が違う」

真帆「どう違うの」
三男「……姉ちゃんが、
誰かに“見つけられたい”って思ってるの、
今日初めて気づいた」

真帆は足を止める。

夕暮れの光が、
二人の間に静かに落ちる。

真帆「……そんなにわかる?」
三男「わかるよ。
俺は、姉ちゃんの一番近くにいるから」

真帆「……っ」

三男は続ける。

三男「姉ちゃんが見つけられたいなら、
俺はちゃんと見つけるよ。
何回でも」

真帆「……それ、ずるい」
三男「事実」

真帆は顔をそむける。
でも、口元は少しだけ緩んでいた。

◆ 4. 夜 ― 真帆の部屋
机に向かいながら、
真帆は今日のことを思い返す。

(“見つける側”……か)

(“見つけられたい”……か)

(……どっちでもいいや。
私を見つけてくれる人が、ちゃんといるなら)

窓の外、
三男の部屋の灯りが静かに揺れていた。