TORQUEトーク

2026/04/29 03:23

「ここにいるよ」 第9話



三男は、家族の声を聞きながらゆっくり階段を降りる。

父の低い声。
母の明るい声。
長男の適当な声。

そして――
真帆の、静かで落ち着いた声。

三男(心の声)
(ああ、今日も“いつもの朝”だ)

真帆はトーストをかじりながら、
母の天然発言に淡々とツッコミを入れている。

三男はその横顔を見ながら思う。

(姉ちゃんって、
家族の中心にいるのに、
中心にいるって気づかれにくいよな)

父は厳格だが、真帆には甘い。
母は天然だが、真帆には頼る。
長男は楽天家だが、真帆には懐く。

三男は――
ただ、静かに見ている。

(俺は、姉ちゃんの“影”を見てるだけだ)

友人たちが騒いでいる。
三男は弁当を食べながら、ふとスマホを見る。

《今日、帰り遅くなる》

真帆からの短いメッセージ。

三男(心の声)
(こういう連絡だけは忘れないんだよな)

友人A「三男ってさ、姉ちゃんのこと好きすぎじゃね?」
三男「普通」
友人B「いや普通じゃないだろ」
三男「普通」

友人たちは笑うが、
三男は本気でそう思っている。

(姉ちゃんは、俺の“基準”なんだよ)

真帆が出てくるのを、
三男は自転車に寄りかかって待っている。

理由は聞かれたら困る。
ただ、待ってしまう。

真帆「……また来てる」
三男「迎えに行くって言った」
真帆「言ってないよ」
三男「俺の中で言った」

真帆は呆れたようにため息をつく。
でも、その目は少しだけ柔らかい。

(ああ、今日も“いつもの姉ちゃん”だ)

二人の影が長く伸びる。
重なったり、離れたり。

三男は、真帆の歩幅に合わせて歩く。

真帆「ねぇ、三男」
三男「ん」
真帆「私って……存在感薄い?」
三男「薄くない」

即答だった。

真帆「……なんでそんなに言い切れるの」
三男「俺には、ちゃんと見えるから」

真帆は少しだけ黙る。

三男(心の声)
(姉ちゃんは、
“気づく人にだけ届く存在感”なんだよ)

でも、それを言葉にすると照れくさい。

だから三男は、
ただ静かに歩く。

真帆が、
自分の横にいることを確かめるように。

机の上には、
真帆が昔描いた“家族の似顔絵”。

三男だけ、妙に丁寧に描かれている。

三男(心の声)
(姉ちゃんは、俺を見てくれてた。
だから今度は、俺が姉ちゃんを見る番なんだ)

窓の外、
真帆の部屋の灯りが静かに揺れている。

三男はふっと笑う。

(姉ちゃん。
俺はずっと、ここにいるよ)

声にはしない。
でも、確かにそう思っていた。

父が咳払いをして、厳かに宣言する。

父「これより第二回家族会議を始める」
母「はじまるのね〜」
長男「議題は?」
三男「姉ちゃんの忘れ物?」
真帆「なんで毎回私が原因前提なの」

父は腕を組んで言う。

父「議題は……特にない」
真帆「ないの!?」
長男「父さん、会議の意味とは」
母「まぁまぁ、集まることに意味があるのよ〜」
三男「母さんの言葉、今日ちょっと深い」

父「真帆。最近どうだ」
真帆「ざっくりしすぎ」
母「元気?ちゃんと食べてる?」
長男「恋してる?」
真帆「なんで恋の話になるの」
三男「姉ちゃんは恋愛興味あるよ」
真帆「お前は黙れ」

父がうんうんと頷く。

父「真帆はもっと自己主張していい」
母「そうそう〜、もっと“ここにいるよ”って言っていいのよ」
長男「でも真帆って、静かにいるのが似合うよね」
三男「うん。静かだけど、ちゃんと見える」

真帆「……なんか褒められてるのかよくわからない」

長男「じゃあさ、家族の改善点とか話す?」
母「私は天然を直した方がいい?」
父「直らん」
母「即答」
三男「兄ちゃんはもっと計画性を」
長男「それは無理」
真帆「開き直るな」

父がふと真面目な顔になる。

父「……実は、私にも改善点がある」
家族「えっ」

父「真帆に甘すぎると言われた」
真帆「言ってないよ!?」
長男「父さん、甘いよ」
母「甘いわね〜」
三男「甘い」
父「全会一致か……」

真帆「なんで私のせいみたいになってるの」

母「ところで今日の夕飯どうする?」
長男「鍋がいい」
父「肉がいい」
三男「魚がいい」
真帆「意見バラバラすぎ」

父「よし、投票だ」
長男「民主主義」
母「私はデザートがいい」
真帆「議題から離れないで」

結局――
三男が静かに言う。

三男「姉ちゃんの食べたいものでいいよ」
父「それが良い」
母「それが良いわ〜」
長男「それが良いね」
真帆「なんで急に私に丸投げなの」

三男「姉ちゃんが決めると、なんか落ち着くから」
父「うむ」
母「わかる〜」
長男「わかる」
真帆「……そんな理由?」

でも、悪い気はしない。

父「では、第二回家族会議を締める」
母「結局、何も決まってないわね〜」
長男「まぁ、家族会議ってそんなもんでしょ」
三男「姉ちゃんが笑ってたから、それでいい」
真帆「……っ、なんでそういうこと言うの」

父が最後に静かに言う。

父「真帆。お前がここにいるだけで、家族はまとまる」
母「そうそう〜」
長男「空気清浄機だからね」
真帆「最後の一言いらない」

家族の笑い声が、
夜のリビングにまた広がった。

真帆が靴を履いていると、
同じクラスの男子・佐伯(さえき)が声をかけてくる。

佐伯「小川さん、今日ちょっと話せる?」
真帆「え、私?」
佐伯「うん。あの……最近、よく笑うようになったよね」

真帆「……そうかな」
佐伯「うん。なんか、いいなって思って」

真帆は一瞬だけ固まる。

(……え、これって)

佐伯「また話したいな。じゃあね」

軽く手を振って去っていく佐伯。
真帆は胸の奥が少しだけ熱くなる。

(……なんか、変な感じ)

その様子を、
校門の外から三男が見ていた。

三男(心の声)
(……誰だ、あいつ)

真帆が佐伯と話しているのを見た瞬間、
胸の奥がきゅっと締めつけられた。

(姉ちゃんが笑ってた。
でも……なんか、違う)

真帆が三男の方へ歩いてくる。

真帆「ごめん、待った?」
三男「……ううん」

声が少しだけ硬い。
自分でも気づく。

真帆「どうしたの?」
三男「別に」

(別に、じゃない)

三男は自分の中に生まれた“正体不明の感情”に戸惑っていた。

玄関を開けた瞬間、父の声が響く。

父「第三回家族会議を始める!」
真帆「また!?」
長男「今日は議題あるの?」
母「あるのよ〜」
三男「嫌な予感しかしない」

母が紙を掲げる。

母「議題:真帆ちゃんの恋愛について」
真帆「やめて!!」
三男「……っ」

三男の心臓が跳ねる。

父「真帆。誰か気になる相手はいるのか」
真帆「いないってば!」
長男「今日、男子と話してたよね?」
真帆「なんで知ってるの!?」
母「三男くんが言ってたわよ〜」
真帆「三男!?」

三男「……いや、別に……」

真帆「なんで言うの!」
三男「……なんとなく」

父が腕を組む。

父「その男子はどんなやつだ」
真帆「普通の人だよ!」
長男「普通って一番怪しい」
母「真帆ちゃん、顔赤い〜」
真帆「うるさい!」

三男は黙っている。
でも、手が少しだけ握られている。

父「三男。お前はどう思う」
三男「……俺?」

真帆も三男を見る。
三男は目をそらす。

三男「……姉ちゃんは……」

言葉が喉で止まる。

(言いたくない。
でも、言わないと苦しい)

三男「……姉ちゃんは、
誰かに雑に扱われるような人じゃない」

家族が静かになる。

三男「ちゃんと見てくれる人じゃないと、
……嫌だ」

真帆「……三男?」

三男は続ける。

三男「今日の人がどうとかじゃなくて……
姉ちゃんが笑ってるの、
俺は……ちゃんと見てたいから」

真帆の胸が熱くなる。

父「……三男」
母「……あら〜」
長男「……これは、恋だね」
真帆「黙れ!!」

三男の顔が真っ赤になる。

三男「ち、違う……違わないけど……違う……」
真帆「どっちなの!?」

父「結論。真帆の恋愛は――」
母「家族全員で見守る!」
長男「監視する!」
真帆「監視はやめて!」
三男「……俺は、見守る」

真帆は三男を見る。

真帆「……ありがと」
三男「……うん」

二人の間に、
家族には見えない“静かな線”が生まれた。

真帆がリビングに入ると、家族全員が妙にニヤニヤしている。

真帆「……何その顔」
母「真帆ちゃん、昨日の男の子〜」
真帆「やめて」
長男「佐伯くんだっけ?爽やか系だったね」
真帆「なんで知ってるの」
父「三男が報告した」
真帆「三男!!」

三男は目をそらす。

三男「……別に、言うつもりじゃなかったけど……」
長男「顔に全部書いてあったよ」
母「三男くん、わかりやすい〜」
父「三男、お前はもっとポーカーフェイスを学べ」

真帆「なんで私の恋愛で三男が怒られてるの」

教室に入った瞬間、ゆかりが飛んでくる。

ゆかり「真帆!!昨日の男子誰!!」
真帆「なんで知ってるの!?」
姫「三男くんの表情が“恋の気配”を示していた」
真帆「三男の表情で判断するな!」

ゆかりは机を叩く。

ゆかり「真帆、ついに恋愛フラグ立ったんだね!!」
真帆「立ってない!」
姫「立っている」
真帆「姫まで!」

ゆかりがスマホを構える。

ゆかり「で、どんな人?どこが好き?いつから?」
真帆「質問攻めやめて!!」

姫は冷静にメモを取り始める。

姫「真帆の恋愛傾向、データ化しておく」
真帆「やめろ!!」

真帆が校門を出ると、三男が待っている。
でも今日は、いつもより少し距離がある。

真帆「……迎えに来たの?」
三男「……うん」

歩き出す二人。
沈黙が、いつもより重い。

真帆「三男、なんか変だよ」
三男「……別に」

(別に、じゃない)

真帆「昨日のこと、怒ってる?」
三男「怒ってない」

(怒ってないけど……苦しい)

三男「……姉ちゃんが誰と話してもいいけど」
真帆「うん」
三男「……なんか、嫌だった」

真帆は足を止める。

真帆「……三男?」
三男「わかんない。
でも……姉ちゃんが誰かに笑ってるの、
見たくない時がある」

真帆の胸が少しだけ熱くなる。

家に帰ると、父が立っていた。

父「第三回家族会議・恋愛特化編を始める!」
真帆「また!?」
母「今日は“真帆ちゃんの恋愛を応援する会”よ〜」
長男「俺は情報収集担当」
三男「……やめて」

父が真帆に向き直る。

父「真帆。あの男子はどんなやつだ」
真帆「普通の人だよ!」
長男「普通って一番怪しい」
母「真帆ちゃん、顔赤い〜」
真帆「うるさい!」

三男は黙っている。
でも、拳がぎゅっと握られている。

父「三男。お前はどう思う」
三男「……姉ちゃんが笑ってるなら……いいと思う」
真帆「三男……」

長男「でも顔は“嫌です”って言ってる」
三男「言ってない」
母「言ってる〜」
父「言っているな」

三男「……っ」

ピンポーン。

真帆「え、誰?」
ゆかり「真帆〜!恋愛会議してるって聞いた!」
姫「参加する」
真帆「なんで来るの!!」

父「よし、拡大会議だ」
長男「戦力増えた」
母「賑やか〜」
三男「……最悪だ」

ゆかり「真帆、佐伯くんのどこが好きなの?」
真帆「好きじゃない!!」
姫「では、三男くんの反応はどう分析する?」
三男「分析するな!!」

家族+友人の圧が真帆に襲いかかる。

真帆「もうやめて!!」

騒ぎの中、三男がぽつりと言う。

三男「……姉ちゃんが誰を好きでもいいけど」
真帆「……うん」
三男「俺は……姉ちゃんの一番近くにいたい」

一瞬、空気が止まる。

ゆかり「……え」
姫「……これは」
長男「……恋だね」
母「恋ね〜」
父「恋だな」

真帆「ちょ、ちょっと待って!!」

三男は真っ赤になって俯く。

三男「違う……違わないけど……違う……」
真帆「どっちなの!!」

家族と友人の笑い声が、
夜の小川家に響いた。

教室に残っていた真帆がカバンを閉じると、
廊下から佐伯が顔をのぞかせた。

佐伯「小川さん、帰る?」
真帆「あ、うん。今から」
佐伯「よかったら……少し歩かない?」

真帆は一瞬だけ迷う。
でも、断る理由もない。

真帆「……いいよ」

佐伯はほっとしたように笑う。
その笑顔が、真帆の胸に小さく刺さる。

夕方の光が、桜の枝を透かして落ちてくる。
二人の影が並んで伸びる。

佐伯「小川さんってさ、
いつも誰かの話をちゃんと聞いてるよね」
真帆「そうかな」
佐伯「うん。俺、そういうとこ好きだよ」

真帆「……っ」

言葉が喉に引っかかる。
“好き”という単語が、
思ったより重く響いた。

佐伯は続ける。

佐伯「この前さ、
ゆかりさんと姫さんと話してる時の小川さん、
すごく楽しそうだった」

真帆「……あの二人は、騒がしいだけだよ」
佐伯「でも、小川さんの笑い方、
なんか……いいなって思った」

真帆は目をそらす。

(……なんでこんなにまっすぐ言えるんだろ)

二人の間に、
夕暮れの風が通り抜ける。

佐伯「小川さんってさ、
誰かに“見つけられたい”って思うことある?」
真帆「……あるよ。
最近、ちょっとだけ」

佐伯「そっか。
じゃあ……俺は、小川さんをちゃんと見つけたい」

真帆「……っ」

胸が、少しだけ熱くなる。

三男は、校門の柱にもたれていた。
真帆が出てくるのを、いつものように待っていた。

でも――
今日は来ない。

三男(心の声)
(……遅いな)

ふと、遠くの桜並木に
真帆と佐伯の姿が見える。

二人の影が、
重なったり、離れたりしている。

三男(心の声)
(……あ)

胸の奥が、
ぎゅっと締めつけられた。

理由は、
まだ言葉にならない。

佐伯「今日はありがとう。
また……話したいな」
真帆「……うん」

佐伯は軽く手を振って去っていく。
真帆はしばらくその背中を見つめていた。

(……なんか、変な感じ)

でも、嫌じゃない。

三男が立っていた。
夕暮れの光の中で、
いつもより影が長い。

真帆「あ、三男……ごめん、待った?」
三男「……ううん」

声が少しだけ硬い。
真帆は気づく。

真帆「どうしたの?」
三男「……別に」

(別に、じゃない)

三男は真帆の荷物を受け取りながら、
静かに歩き出す。

真帆は横顔を見つめる。

(……なんか、変だ)

夕暮れの風が、
二人の間をそっとすり抜けていった。

教室のざわめきの中、
佐伯はふと視線を向けた。

真帆が、ゆかりと姫の話を聞いて笑っていた。

その笑い方は、
声を張り上げるわけでもなく、
大げさでもない。

ただ、
“そこに静かに灯る光”みたいだった。

佐伯(心の声)
(……あれ、こんな顔するんだ)

気づいたら、
目で追っていた。

真帆が帰り支度をしている。
佐伯は廊下で、
何度も深呼吸をしていた。

佐伯(心の声)
(話したい。
でも、どう言えばいいんだろ)

真帆はクラスの中で目立つタイプじゃない。
でも、
“気づくとそこにいる”不思議な存在感があった。

佐伯(心の声)
(あの静けさ、なんか……好きだな)

勇気を出して声をかけた。

佐伯「小川さん、帰る?」
真帆「あ、うん」
佐伯「よかったら……少し歩かない?」

真帆が少しだけ驚いて、
でも断らなかった。

その瞬間、
胸の奥がふっと軽くなった。

夕暮れの光が、
二人の影を長く伸ばす。

佐伯はゆっくり話し始めた。

佐伯「小川さんってさ、
誰かの話をちゃんと聞くよね」

真帆は少しだけ照れたように笑った。

その“間”が、
佐伯にはたまらなく心地よかった。

佐伯(心の声)
(この人、
言葉より沈黙の方が伝わるんだ)

だから、
つい言ってしまった。

佐伯「俺、そういうとこ好きだよ」

真帆の肩が小さく揺れた。
その反応が、
なんだか嬉しかった。

佐伯は前から気になっていたことを聞いた。

佐伯「小川さんってさ、
誰かに“見つけられたい”って思うことある?」

真帆は少し考えてから言った。

真帆「……あるよ。
最近、ちょっとだけ」

その言葉が、
胸に静かに落ちた。

佐伯(心の声)
(じゃあ……俺が見つけたい)

自然と、
そう思った。

帰り際、
真帆がふっと振り返った。

その表情は、
少しだけ揺れていて、
でも前を向こうとしていた。

佐伯(心の声)
(……この人、
誰かに大事にされてる顔してる)

その“誰か”が誰なのか、
佐伯はまだ知らない。

ただ、
校門の影に立つ三男の存在に、
この時はまだ気づいていなかった。

佐伯はひとり歩きながら、
夕暮れの空を見上げた。

佐伯(心の声)
(また話したいな)

でも同時に、
胸の奥に小さな不安が生まれていた。

佐伯(心の声)
(……小川さんの隣には、
もう誰かいるのかもしれない)

その“誰か”の影が、
夕暮れの中で静かに揺れていた。

真帆がリビングに入ると、家族全員が妙にソワソワしている。

真帆「……何その空気」
母「真帆ちゃん、デートいつ?」
真帆「は?」
長男「佐伯くんとでしょ」
真帆「なんで知ってるの」
父「三男が報告した」
真帆「三男!!」

三男は目をそらす。

三男「……別に、言うつもりじゃなかったけど……」
長男「顔に全部書いてあった」
母「三男くん、わかりやすい〜」
父「三男、お前はもっと無表情を学べ」

真帆「なんで私の恋愛で三男が怒られてるの」

父「まずは昼食だ。落ち着いた店が良い」
母「いや〜若い子はカフェよ〜」
長男「映画でしょ。暗いし距離近いし」
真帆「やめて!!」

三男は黙っている。
でも、拳がぎゅっと握られている。

母「真帆ちゃん、ワンピース着る?」
真帆「着ない!!」
長男「髪巻く?」
真帆「巻かない!!」
父「では私が送り迎えを――」
真帆「来ないで!!」

三男は静かに言う。

三男「……姉ちゃんが嫌なら、やめた方がいい」
父「三男、甘い」
母「甘い〜」
長男「甘い」
真帆「そこは甘くていい!」

教室に入った瞬間、ゆかりが飛んでくる。

ゆかり「真帆!!デートするって本当!?」
真帆「してない!!」
姫「家族が騒いでいた」
真帆「なんで知ってるの!?」

ゆかりは机を叩く。

ゆかり「真帆、ついに恋愛イベント発生じゃん!!」
姫「佐伯くんは好印象。表情筋の動きが誠実」
真帆「表情筋で判断するな!」

ゆかり「で、どこ行くの?服は?髪は?」
真帆「行かないってば!!」

姫は冷静にメモを取る。

姫「真帆の恋愛傾向、更新しておく」
真帆「更新するな!!」

真帆「……迎えに来たの?」
三男「……うん」

歩き出す二人。
沈黙が、いつもより重い。

真帆「三男、なんか変だよ」
三男「……別に」

(別に、じゃない)

真帆「家族のこと怒ってる?」
三男「怒ってない」

(怒ってないけど……苦しい)

三男「……姉ちゃんが誰とデートしてもいいけど」
真帆「うん」
三男「……考えるだけで、胸が痛い」

真帆は足を止める。

真帆「……三男?」
三男「わかんない。
でも……姉ちゃんが誰かに笑ってるの、
見たくない時がある」

真帆の胸が少しだけ熱くなる。

家に帰ると、父が立っていた。

父「デート計画、第二案を作った」
真帆「作るな!!」
母「真帆ちゃん、可愛い服買いに行こ〜」
真帆「行かない!!」
長男「佐伯くんのSNS調べた」
真帆「調べるな!!」

三男は黙っている。
でも、目が少し赤い。

父「三男。お前はどう思う」
三男「……姉ちゃんが笑ってるなら……いいと思う」
真帆「三男……」

長男「でも顔は“嫌です”って言ってる」
母「言ってる〜」
父「言っているな」

三男「……っ」

真帆「三男」
三男「……なに」
真帆「私は……まだデートとか、よくわかんないよ」

三男は顔を上げる。

真帆「でも、三男がそんな顔するなら……
ちょっと考える」

三男「……っ」

父・母・長男「(聞こえてるぞ)」

真帆「聞くな!!」

真帆がリビングに入ると、
家族全員が“何かを察した顔”で三男を見ている。

真帆「……何その空気」
母「三男くん、昨日ずっと元気なかったのよ〜」
長男「恋だね」
父「恋だな」
三男「違う」

真帆「何の話?」
父・母・長男「(三男の恋の話)」
三男「やめて」

三男は珍しく、
本気で怒っているように見えた。

母がそっと三男の肩に手を置く。

母「三男くん……真帆ちゃんのこと、好きなの?」
三男「……っ」

三男の耳が一瞬で赤くなる。

長男「図星だ」
父「図星だな」
母「図星ね〜」
三男「違う……違わないけど……違う……」

真帆「どっちなの!?」

三男は真帆を見られない。

(※この時点で家族全員、確信する)

教室に入った瞬間、ゆかりが叫ぶ。

ゆかり「真帆!!三男くん、絶対好きでしょ!!」
真帆「なんで知ってるの!?」
姫「家族の表情筋が“確信”を示していた」
真帆「表情筋で判断するな!」

ゆかりは机を叩く。

ゆかり「真帆、どうするの!?
佐伯くんもいるし、三男くんもいるし!」
真帆「そんな三角関係みたいに言うな!」

姫は冷静にメモを取る。

姫「真帆の恋愛状況、混沌」
真帆「書くな!!」

真帆が校門を出ると、
佐伯が待っていた。

佐伯「あ、小川さん。今日も少し歩かない?」
真帆「え、あ……」

その瞬間――
三男が歩いてくる。

三男「……姉ちゃん、帰るよ」
真帆「三男……?」

佐伯「三男くん、こんにちは」
三男「……こんにちは」

声が低い。
いつもの三男じゃない。

佐伯「小川さん、どうする?」
真帆「えっと……」

三男「……俺と帰る」

真帆「え?」

三男「今日は……俺と帰る」

佐伯は少し驚き、
でも優しく笑った。

佐伯「じゃあまたね、小川さん」

去っていく佐伯。
真帆は三男を見る。

真帆「三男、どうしたの?」
三男「……嫌だった」

真帆「何が?」
三男「姉ちゃんが……誰かと笑ってるの、
見たくなかった」

真帆は息をのむ。

真帆と三男だけが残る。

静かな夜。
時計の音だけが響く。

真帆「……三男、今日のこと、怒ってる?」
三男「怒ってない」
真帆「じゃあ……悲しかった?」
三男「……わかんない」

三男は真帆を見られない。

三男「姉ちゃんが誰かに笑ってるの、
胸が痛くなる。
理由は……わかんない」

真帆はそっと三男の横に座る。

真帆「三男」
三男「……なに」
真帆「私ね、三男がそんな顔するなら……
ちゃんと考えるよ」

三男はゆっくり顔を上げる。

真帆「三男の気持ち、
無視したくないから」

三男の目が揺れる。

三男「……姉ちゃん」
真帆「うん」
三男「俺……姉ちゃんの一番近くにいたい」

真帆は少しだけ笑う。

真帆「……それ、ずるいよ」
三男「事実」

二人の間に、
静かで深い夜が落ちた。

でもその夜は、
どこか温かかった。

目が覚めた瞬間、
昨日の三男の言葉がふっと蘇る。

「俺……姉ちゃんの一番近くにいたい」

真帆(心の声)
(……なんで、こんなに残ってるんだろ)

胸の奥が、
じんわり熱い。

真帆が階段を降りると、家族全員が妙に優しい。

母「真帆ちゃん、お味噌汁多めにしといたわよ〜」
父「真帆、椅子引いてやろう」
長男「今日の真帆、可愛いね」
真帆「なんでそんなに優しいの?」

三男は、
真帆の顔を見られない。

母は小声で父と長男に囁く。

母「三男くんの恋、応援しましょうね〜」
父「うむ」
長男「任せろ」

真帆「聞こえてるから!!」

三男「……やめて」

ゆかりと姫が近づいてくる。

ゆかり「真帆、なんか今日ぼーっとしてない?」
真帆「してない」
姫「心拍数がいつもより高い」
真帆「測るな!!」

ゆかりはニヤニヤしながら言う。

ゆかり「三男くんのこと、考えてたでしょ」
真帆「……っ、違う」
姫「反応速度が“図星”」
真帆「やめて!!」

でも、否定しながらも
胸の奥がまた熱くなる。

(……なんで三男の顔が浮かぶの)

校門を出ると、三男が待っていた。
昨日より少しだけ距離が近い。

真帆「……迎えに来たの?」
三男「うん」

二人は並んで歩く。
沈黙はあるけれど、
昨日より柔らかい。

真帆「三男、昨日のこと……」
三男「忘れていいよ」
真帆「……忘れたくないよ」

三男は足を止める。

三男「……え?」

真帆「昨日、三男が言ったこと……
なんか、ずっと残ってる」

三男の目が揺れる。

三男「……姉ちゃん」
真帆「うん」
三男「俺、また変なこと言うかもしれない」
真帆「いいよ。聞くから」

二人の距離が、
ほんの少し縮まった。

家に帰ると、家族が待ち構えていた。

父「三男、今日こそ言え」
三男「言わない」
母「真帆ちゃん、三男くんの隣座って〜」
真帆「なんで!?」
長男「距離を縮める作戦だよ」
真帆「作戦にするな!!」

三男は真っ赤になって俯く。

父「三男。お前の気持ちは家族全員知っている」
母「応援してるわよ〜」
長男「頑張れ」
三男「……やめて……ほんとに……」

真帆は三男を見る。

(……こんなに顔赤くして、
こんなに困ってるのに)

胸がまた、
じんわり熱くなる。

家族が気を利かせて(?)
「二人で話しなさい」と言って部屋を出る。

真帆と三男だけが残る。

静かな夜。
時計の音だけが響く。

真帆「三男」
三男「……なに」
真帆「私ね、最近……
三男のこと考える時間が増えた」

三男は息をのむ。

真帆「なんでかわかんないけど……
三男が誰かに取られたら嫌だって思った」

三男「……っ」

真帆「これって……どういう気持ちなんだろ」

三男はゆっくり、
真帆の方へ向き直る。

三男「……姉ちゃん」
真帆「うん」
三男「それは……俺と同じ気持ちだと思う」

真帆は目を伏せる。
でも、口元は少しだけ緩んでいた。

真帆「……そうかもね」

二人の間に、
静かで深い夜が落ちた。

でもその夜は、
昨日よりずっと温かかった。

佐伯は校門で真帆を待っていた。
昨日の会話が、まだ胸に残っている。

佐伯(心の声)
(今日も……少し話せたらいいな)

真帆が校舎から出てくる。
その瞬間、佐伯は声をかけようと一歩踏み出した。

だが――
真帆の横に、
ひとりの男子が歩み寄る。

三男だった。

三男は真帆の荷物を受け取り、
何も言わずに歩き出す。

真帆も、
何も言わずに隣に並ぶ。

その距離は、
近すぎず、遠すぎず、
でも“他人ではありえない距離”だった。

佐伯(心の声)
(……あれ?)

二人の影が、
夕暮れの道で重なったり離れたりしている。

佐伯は思わず立ち止まった。

佐伯(心の声)
(小川さん……
あんな顔、俺には見せてない)

真帆の横顔は、
どこか安心していて、
どこか甘えていて、
どこか“帰る場所”みたいだった。

佐伯「小川さん!」

真帆が振り返る。
三男も振り返る。

佐伯「今日……少し、歩かない?」

真帆は一瞬迷う。
その一瞬の間に、
三男の表情がわずかに揺れた。

真帆「……ごめん。今日は……」

三男「俺と帰る」

佐伯はその言葉に、
胸の奥がざわつく。

佐伯(心の声)
(……“俺と帰る”?
そんな言い方、普通しない)

真帆は困ったように笑い、
三男の方へ歩き出す。

佐伯はその背中を見つめながら、
ゆっくり息を吐いた。

佐伯(心の声)
(小川さんの隣には……
もう誰かがいるんだ)

それは恋人ではない。
でも、
“誰より近い誰か”だ。

佐伯(心の声)
(あの距離……
俺が入れる隙間じゃない)

夕暮れの光の中、
真帆と三男の影は
自然に寄り添っていた。

佐伯はその光景を見ながら、
胸の奥が静かに痛むのを感じた。

佐伯(心の声)
(でも……話したい。
もっと知りたい)

真帆の笑顔が、
昨日より遠く感じる。

佐伯(心の声)
(三男くん……
君は、どんな気持ちで隣にいるんだろう)

夕暮れの風が吹き抜ける。
佐伯はひとり、
その場に立ち尽くした。

1件のコメント (新着順)
イワナ
2026/04/29 04:02

学園もの?それとも家族模様‥
会話主体の新しい試みやね👍️



というか‥まだ起きてたんかい〜おやすみ💧