TORQUEトーク

2026/04/20 21:44

【 TORQUE文学:湾岸トルクナイト ⑬ 最終話 】

【 TORQUE文学:湾岸トルクナイト ⑫ 】より続き。
https://torque.kyocera.co.jp/chats/eel6046hwjowjnzi

深夜の大阪湾岸線で繰り広げられる、俺『にせもん』の黄色いスカイラインと、『お嬢』の白いポルシェとのランデブー走行の様子は、俺の友人『むっちゃ』を通しSNSサイト・TORQUE SMILEにライブ投稿され、今では『湾岸トルクナイト』というタイトルの人気記事になっていた。

俺の愛車スカイラインのエンジン積み替え作業は、その他の補機類もあわせ約1週間で終わった。
その間 むっちゃは毎晩のように、俺から聞いた作業の様子をTORQUE SMILEに投稿していた。
積み替え作業が終了した今晩も、いつものように彼からの着信があった。
「あぁ、俺だけど。昨日話した通り、今日終わったよ。積み替え。」
「にせもんさん、お疲れ様です。では、今度からはナラシ運転ですね。」
「うん、そうなるね。燃調や点火系のセッティングも必要だしね。」 
エンジン自体はすでに組み上がっていたものだが、実際に回すのはこれがはじめてだ。
長年に渡り何度もエンジンの載せ替え経験がある俺だから、今度も致命的なトラブルは起こらないと予想している。
「そう言えば、結局 お嬢からはなんの連絡はありませんでしたね。」
むっちゃは、もぅ諦めたような様子でそう言った。
「…そうだね。」
もともと俺は、彼女からの連絡など最初から期待していない。
だからその点については、むっちゃほど気になってはいない。
今夜 積み替えが終了したスカイランのエンジンのナラシ運転と各種セッティングの様子は、今後 むっちゃによって毎晩のように投稿される。
そしてその間も、彼女からトルクナイトへの連絡は無いだろうと、俺は確信している。
「ホントのところ、にしもんさんはどう思ってるんですか? お嬢のことって…。」
いつか聞かれるだろうとは思っていたが、むっちゃからの突然の質問だった。
俺自身はそのことについては、極力考えないようにしていた。
正確には考えたく無かった。
「彼女には感謝してる、ただそれだけ…かな。」
俺には嘘偽り無くそれしか無かった。それ以外に言いようが無いのだ。
自分の技術と知識と経験の詰め込んで組み上げたエンジン『RB26改3.0LのGT3037SツインターボVカム仕様』。
それは数年前に完成したまま一度も回すことなく、一週間前まで俺のガレージの隅に置き去りにされていた。
どんな理由にしろ、このエンジンを愛車スカイライに積む込み、走らせる気にさせてくれたのは、爆速の白いポルシェを駆る美人女子『お嬢』なのだ。
俺は彼女に対しては、その事に感謝している気持ちしかない。
SNSサイト・TORQUE SMILEの別企画では、『…お嬢情報』なんてのも今だに盛り上がっているようだが、俺は見ていない。
彼女がどこの誰で何者だろうと、俺には関係無いし興味も無い。
そのことを俺は、自分なりにできるだけ正確に、むっちゃに説明した。
「やっぱりそうでしたか。今後も、お嬢へのメッセージは続けてもいいですか?」
「あぁ、別にそれはかまわないよ。」
「ありがとうございます。」
(この場合はお礼を言われるものなのか?)
俺は自分の立場がよく分からなくなっているが、とりあえずその夜はそこまで話し電話を切った。
翌日からは、積み替えたエンジンのナラシ運転に入った。
夜の高速道路を、エンジンに無理をさせない回転で巡航を続けた。
エンジンにはなんら問題らしきものは見当ら無い。
やはり、3リッターまで排気量を上げたエンジンは、低回転でもストレス無く愛車を加速させてくれる。
これは『Vカムシステム』の恩恵もあるだろうが、とにかく運転が楽なのだ。
約500kmの走行で一度エンジンを開けて確認し、その後にまた500km走行し再度エンジンを開けて異常が無いかを確認した。
その間もむっちゃは、その様子をトルクナイトに投稿していた。
毎回のようにコメントが多数書き込まれ、そちらの返信も全て むっちゃが対応していてくれた。
「トータル1000km走らせて異常は何も出なかった。明日からは少しづつパワーを出すセットをしていくよ。」
「くれぐれもお気を付けて。お嬢のポルシェと勝負する前に壊さないように(笑)」
「フルパワーにしなくても、前のよりも充分速いからね。やっぱり排気量400ccアップとVカムは凄いよ。」
「もぅ、やる前から勝っちゃたかもしれませんねっ!」
「かもね。」
そんな軽口が出るものの、実は二人ともこれっぽっちも思ってないのだ。
やる前から勝つなんてことは。
勝負はやってみないと分からない。
当たり前のことだが、この言葉の意味は重い。
実際に勝負というものを多く経験した者でなければ、その重さも分からない。
言葉なんてものは「何を言うか」よりも、「誰が言うか」のほうが何倍も大事なのだ。
さらには「いつ言うか」というのも重要になってくる。
俺も むっちゃも、そのあたりのことはよく分かっている。
「じゃあ、また。」
「おやすみなさい。」
その日もいつものように電話を切った。
その翌日から約1週間かけ、俺は載せ替えたエンジンのセットアップに入った。
アクセルを少しずつ開けながらタービンの過給圧を上げ、燃料を調整や点火などを調整していく。
一度のたくさんのことを変化させてしまうと、どちらが良いのか分からなくなるが、その場合は自分の『勘』を大事にした。
セットアップを重ねる間も、そのことを むっちゃに電話で報告し、彼はせっせと投稿を重ねた。
湾岸トルクナイトの常連読者は、今では200人を超えており、コメントへの対応もかなり大変になってきたらしい。
「俺もたまには、返信したほうがいいかな?」
ホントはそんな気など毛頭も無いのだが、一応むっちゃには形だけそんなことを言ってみる。
「いえ、イイですってそんなことしなくても、にせもんさんは車のことだけ考えていて下さい。」
予測はしていたが、そんな風に言ってくれてホッとした。
俺は言葉で表現するのは苦手だから、とんでもない書き込みをしてしまいそうだ。
だいたい、トルクナイトを見てる時はほどんど飲んでいることだし…。
エンジンを載せ替えと補機類の取り付け&交換に一週間。
載せ替えたエンジンのナラシ運転に約ニ週間弱。
セットアップに約一週間。
俺がお嬢のポルシェにコテンパンにやれてから、ちょうど1ヶ月後に全ての作業が一端終了した。
ナラシ運転からセットアップまで、それを行うコースは全て夜の高速道路だった。
そして、その区間までもが俺から むっちゃを経て、トルクナイトに公開されてはいた。
だが、お嬢の白いポルシャは一度も俺も視界に姿を現すことは無かった。
ひょっとしたら、もぅ俺のことなど関心が無いのかもしれない。
違うエリアでもっと速い相手を見つけて、日夜そちらでバトルを繰り広げているのかもしれない。
お嬢のあの白いポルシェも、もぅ走っていないのかもしれない。
そもそも、あの夜のこと自体が俺の妄想だったのかもしれない。
(…もぅ…どうだっていいや…そんなこと…)
いつの間にか、俺はそんな気持ちになっていた。
むっちゃやトルクナイトの読者には悪いが、お嬢と白いポルシェのことは、俺の中ではあまり重要では無くなっていた。
この1ヶ月というもの、本当に毎日が楽しかった。
俺は花屋なのだから、毎日の車に接する時間はそれほど長くはない。
だが、この1か月間 何かをしている隙間時間などに、自然と愛車スカイラインのことを考えていた。
俺が手に入れてから軽く20年以上の時が経っており、今までに何度もエンジンを載せ替えてきた。
車体にも可能な限り手を加え、正直もぅ乗るのも改造するのも『飽き』が来ていた愛車のスカイラインだった。
(ココまで手放さなくて良かった。車もエンジンも。)
俺は自分のTORQUEで、今日投稿されたトルクナイトのページを開いた。
〈にしんもん氏のスカイラインに搭載されたエンジン『RB26改3.0LのGT3037SツインターボVカム仕様』のセットアップが今夜一端終了しました。これによりいつでも、『お嬢さん』の白いポルシェとのバトルが可能になりました。〉
そう書かれた記事には、すでに膨大な量のコメントが寄せられていた。
俺にはまるで、それは知らない誰か他人のことのようにも思える。
そこにはすでに、俺と むっちゃとお嬢の3人の手から離れた、1つの別世界が誕生していた。
新しいエンジンのパワーを想像する者。
古いスカイラインの車体を心配する者。
白いポルシェの改造内容を推測する者。
勝負の行方を占う者。
お嬢の正体を予想する者。
称賛と非難の数々…。
(一人ひとりに自分だけの『湾岸トルクナイト』のストーリーがあるんだ。)
いつものように飲みながら、会員たちのコメントとそれに応える むっちゃの返信を見ていく。
量が多すぎて、何度も画面をスクロールさせないと、一番最新のものが見えなくなっている。
やっと最後に書き込まれたコメントまで辿り着く。
そのコメントを読んだ瞬間っ!
アルコールでボンヤリしていた俺の意識が、急に冷水をぶっかけられたように覚醒した。
TORQUE G07 ブルー:〈やっと わたくしと走れるようになったみたいですね。いつでもお相手して差し上げますわ。にせもん様。〉
それは誰かの悪戯では無いと確信できた。
俺にしか分からないが、間違いなく『お嬢』本人からのコメントだ。
お嬢が俺との最初のコンタクトの時に見せた『青いTORQUE G07』。
なぜだか、お嬢のTORQUEのシリーズとカラーに関しては、今まで俺は誰にも言ってない。
むっちゃにさえも…。
そのコメントへの返信ボタンをタップして、俺はこう書き込んだ。
にせもん:〈お手柔らかに願います。お嬢さん。〉
それだけを送信して『湾岸トルクナイト』を俺は閉じた。

END

※番外編 【 TORQUE文学:頭文字Torque ① 】へ続く。
https://torque.kyocera.co.jp/chats/xqketujeylellyxj

参考資料

「大阪湾岸に取り憑かれた男たちの物語」伝説の最高速チームを追って・・・
https://motor-fan.jp/article/133519/

【俺は湾岸最高速ランナーだった】元走り屋が語る湾岸ミッドナイトの実世界
https://car-guide01.com/kanri/

「ほとばしる湾岸ミッドナイト愛」熱量が高すぎるBNR32“平本レプリカ”登場!
https://motor-fan.jp/article/192849/

「首都高伝説」2001年、全盛期のC1外回りで最速と呼ばれた紅きBNR34
https://motor-fan.jp/article/24910/

聖典 湾岸ミッドナイトの名言まとめ
https://note.com/jun788/n/nc52bcc174a23

湾岸ミッドナイトの私的名言集を作ってみた
https://gothedistance.hatenadiary.jp/entry/20090713/1247416206

漫画:湾岸ミッドナイト……から
https://ncode.syosetu.com/n7169fi/7/

コンプリートエンジン RB26DETT 3.0L STEP3 V-CAM
https://www.hks-power.co.jp/product/engine/complete_engine/rb26_3.0_s3_vcam.html

楠みちはる「湾岸ミッドナイト C1ランナー」
https://natalie.mu/comic/column/632397

その他多数。

1件のコメント (新着順)
にしもん@50s pro バッジ画像
2026/04/21 09:20

最後に会えたハッピーエンドなのか💥😀✨⁉️
それとも、、、謎を秘めたままに幕を下ろす😀👍🔧

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