TORQUEトーク

2026/04/20 09:36

【 TORQUE文学:湾岸トルクナイト ⑫ 】

【 TORQUE文学:湾岸トルクナイト ⑪ 】より続き。
https://torque.kyocera.co.jp/chats/ddramuzsvz7ethhx

深夜の大阪湾岸線で繰り広げられる、俺『にせもん』の黄色いスカイラインと、『お嬢』の白いポルシェとのランデブー走行の様子は、俺の友人『むっちゃ』を通しSNSサイト・TORQUE SMILEにライブ投稿され、今では『湾岸トルクナイト』というタイトルの人気記事になっていた。

俺の愛車スカイラインのエンジン換装作業は毎日着々と進んでいた。
その様子は むっちゃにより『湾岸トルクナイト』に投稿されている。
投稿に対して、TORQUE SMILE会員が書き込むコメントには、相変わらず彼が一人で対応していた。
家業である花屋の営業を終えてからなので、俺の実際の作業時間は毎日1~2時間だろうか。
実際にはもっと時間はとれるのだが、その後はビールを飲む時間が必要なのでそれくらいで終了させている。
いつもビールを飲みながらトルクナイトを観ていると むっちゃからの着信があり、その日の作業についての進捗を報告していた。
今日もむちゃからの着信が俺のTORQUEにあった。
「もしもし。うん、俺。今も観てたよ、トルクナイト。相変わらず飲みながらね。」
「お疲れ様です。作業は順調でしょうか?」
「あぁ、特に問題は無いけどね。」
ここ最近の俺たち二人は、こんな感じで夜の会話をはじめていた。
俺の愛車スカイラインに載せ替え中のエンジン『RB26改3.0LのGT3037SツインターボVカム仕様』は、随分前に組み上げて保管していたものだった。
同じ形式のエンジン同士の交換だから、載せ替え自体には特に何の問題も無い。
だが、今までの載せていたエンジンに比べ大幅にパワーアップさせているために、走行中に発生する『熱』の問題に対応しなければならない。
エンジンの電子的な制御に関しても、載せ替えるエンジンが『Vカム仕様』ということもあり、専用のコントローラーの設置も必要になる。
こんな事も むっちゃには何も説明する必要は無い。
それらのこともすでに、トルクナイトの投稿に彼が書き込んでくれていた。
湾岸トルクナイトの投稿に書き込まれる会員の興味は、今現在は主に次のエンジンについてのことが多い。
まぁ、エンジンの載せ替えが終わらないことには、俺のスカイランは走らせられないから、勢いハード面の話題になるのは仕方がないことだろう。
しかしつい先程だが、トルクナイトを閲覧していて、チョッと気になるコメントの書き込みがあったのを思い出した。
「そう言えば、皆んなとチョッと違う感じのコメントがあったよね。」
「あの、それって『ちょっくん』さんのコメントですか?」
「そうそう、『ちょっくん』のあのコメント。読んだんだね。」
むっちゃも、会員の『ちょっくん』のコメントが気になっていたようだ。
ちょっくんはラジコンのマニアで、いつも新しく作ったラジコンカーのことや、それを走らせた様子なんかを投稿していた。
ラジコンカーも奥が深い世界なので、マニアになってくればかなり多くのアイテムや、それぞれに関する大量の知識が必要になってくる。
ラジコンカー好きにはもともと車好きが多いし、実際に走らせるスケールが違うだけなので、両方に共通する話題も多い。
俺自身はラジコンカーは子供の頃にオモチャのようなものを走らせた経験はあるが、本格的なものには手を出したことはない。
だが むっちゃのほうは、かなり凝った時期があったようで、今も遊びで走らせる『車両』を、いくつか所有しているようだ。
「 〈300Km/h付近でのステアリング操作ってどんな感じでしょか?〉って書き込みね。」
「えぇ、それについては にせもんさんから直接聞かなけりゃって思ってたんです。だからまだ何も返信書いてません。」
むっちゃはバイクの走り屋だったので、四輪での300Km/hでのステアリング操作については分からない言う。
コメントの書き込みに対しての返信というのは、書き込み内容はもちろんだが、実は誰がそのコメント書いたのかによっても、コチラ側の対応も変わってくるものなのだ。
今回の〈…300Km/h付近のステアリン操作…〉についても、そのコメント主がラジコンマニアの『ちょっくん』なら、それなりに彼に納得してもらえる返信をしたいと考えるのが『大人の品格』ってものだろう。
子供が遊ぶ『オモチャのラジコンカー』しか知らないものには想像しにくいが、ラジコンカーのレースは世界選手権も開催されるような立派な『競技』なのだ。
その世界は実車に何も劣らないほどの、高度なテクノロジーとスキルが存在している。
本物のレースカーの約10分の1ほどのラジコンカーは、専用のコースを30~70Km/hのトップスピードで走行する。
これは実車に換算すると、なんと300~700Km/に相当する視覚的なスピード感になる。
そのラジコンカーを競争させる専用のコースは、曲がりくねったサーキットなので、息をもつかせぬ加減速とコーナリングの連続となる。
俺もTVなどで何度もラジコンカーのレースを観たことがあるが、あんな小さなものあの速度で走らせてコントロールするには、かなりの訓練を積まないと無理だと分かる。
そんな世界を身を持って知っている、ラジコンマニアの ちょっくんだから、他の会員が気にも掛けない、実車の300Km/h付近のステアリン操作に関心があるのだろう。
俺は ちょっくんの質問にどう答えてイイのか、すぐには分からない。
「…ウーン…。」
( 実際に体験していない者に俺が言葉で説明できるだろうか?)
「なかなか難しい質問ですよね。相手が ちょっくんさんだしね。」
むっちゃは自分もラジコンカーが好きなので、俺が ちょっくんへの回答に困っている理由が分かっている。
「 そうだっ!アレと同じって言えば通じるかもしれないっ!」
「…えっ? アレって?」
咄嗟に叫んでしまった俺の言葉を むっちゃが聞き返した。
俺は頭の中で、以前TVの番組で放映された、ラジコンカーレースの世界チャンピオンのことを思い出したのだ。
早速その番組の様子を、俺はむっちゃに伝えた。
その番組では、ラジコンカーのレースで39歳で引退するまでに、世界選手権優勝14回、全日本選手権優勝53回を獲得した『広坂正美』選手が、サーキットでデモ走行する様子を放映していた。
専用コースを走る広坂選手が操るラジコンカーを1台のカメラが追い、そのマシンを操縦する為の『プロポ』という無線コントローラを操作する広坂選手の手元を同時に映していた。
実物の10分の1のスケールのそのマシンは、目まぐるしい速度で右に左に車体をひるがえし、専用コースを猛スピードで周回している。
走るマシンのその姿を正確に目で追うには、瞬きすらできないほど忙しい。
そんな走行シーンがTV画面の上半分に映し出され、画面の下半分には広坂選手が操縦する、プロポの指捌きが映っていた。
その映像は俺のガレージで車仲間の数人と一緒に観ていたのだが、その時に感じた衝撃は俺は今も覚えている。
〈 …えぇっ、指…動いてないじゃないか…!? 〉
画面上半分でコースを疾走し続けるラジコンカーに対し、プロポのスティックを操作する広坂選手の指は、二本とも止まったままだ。
俺は最初、TV局の中継ミスだと思った。
下半分の画面だけが何らかの事情により、延々と静止画が映されているのだと。
同じ画面を観ていた者たちは、ほどんどの連中がラジコンカーが走る上半分しか観ていないようで、操縦画面についの異常を指摘するものは誰も居ない。
「下に映ってるプロポ操作の画面って、止まってるよね?」
俺は誰に言うでもなくそう言ってみた。
それを聞いた一人の仲間が、特に何の感情もこもってない様子でこう言った。
「いや、動いてるよ。ほんの少しだけ、ゆっくり動いてる。」
俺は改めてプロポのスティックの頭部に乗る広坂選手の両親指を凝視した。
それは確かに動いていた。
まるで止まっているのかと錯覚するほどのスロースピードで、2本の親指はセンター位置から上下・左右のわずかな距離を往復していた。
コースの中を目まぐるしく駆け回るラジコンカーと、それを操縦する指のスローモーションな動きとのアンバランスな映像に、俺の頭は混乱してしばらく回転を止めた。
それが現実の光景だと認識できた途端、俺の中にもの凄い感動が湧き上がり、叫び出さずにはいられなかった。
「スッゲーッ、コレ凄いよねっ! よくこんな風に操縦できるよねっ!」
興奮してこう叫んだ俺の姿に、一斉に皆の視線が集まった。
そしてその誰もが、なぜだか不思議そうな顔をしていた。
「…まぁ、何度も世界チャンピオンを取るくらいの人だからね。コレくらいは朝飯前じゃないの。」
先ほどとは違う誰かが、俺に向けてそんなことを言った。
どうやら俺の驚きは、この場の居る誰にも伝わっていないようだ。
「でもさぁっ、ラジコン走らす時にプロポのスティックって、普通もっと速くたくさん動かすよねっ!?」
と俺は言ったが、また別の一人がこう言う。
「…そう言えばそうだけど、チョコっとしか動かさなくても走れるように、何か設定してるんだろうね。」
その場ではそれ以上の話題には発展しなかった。
俺は先ほど世界チャンピオンが見せた超絶技巧に感動した。
だが、それをその場の誰とも共有できなかった寂しさ含め、むっちゃに語った。
「あっ、にせもんさんの言いたいこと、分かりましたっ!」
むっちゃは俺の言いたいことを100%理解してくれたようだ。
「うん、高速道路を一般車をかわしながら超高速で走るときも、あんな風に微小な操作を繰り返してるんだ。」
「なるほどぉ、そうなんですね。」
「ハンドルだけじゃない。アクセルもブレーキもドタバタした操作なんてしないしできない。そんなことしたら車はあっと言う間にどこかに飛んで行ってしまう。」
「あくまでも、ラジコンチャンピオンが見せたような、微小な操作なんですね。」
「そう。まぁ、車のほうもそんな操作にキチンと反応するように仕上げていくんだけどね。」
「分かりました。では ちょっくんの質問へは〈広坂選手のスティック操作と同じことをしてる〉と返信しときます。」
「うん。それで分かってくれると思うし、俺はそうとしか説明できないしね。」
俺がそう言うそばから、むっちゃがパソコンのキーボードを叩くカタカタという音が聞こえる。
トルクスマイルの更新ボタンをタップすると、すでに ちょっくんへの返信が投稿されていた。
むっちゃ:〈にせもんさんによると、300Km/h付近のハンドル操作は、元ラジコンレースのプロ選手・広坂正美さんのプロポ操作と本質的には同じだそうです。〉
これで質問者の ちょっくんは分かってくれるだろう。
そして他の者にはまったく分からないだろう。
あの時に俺のガレージに居た誰もが、俺の感動が理解できなかったように。
でも、それで良いと俺は思った。
( 分かる者にだけ伝われば良い。)
ちょっくんから、先ほどの返信に対してのコメントが書き込まれた。
ちょっくん:〈 回答ありがとうございます。とても良く分かりました。あのような超微小角での操作にもキチンと反応するように、車のほうもセッティングされるのでしょううね。〉
その書き込みを見て俺はトルクナイトのページを閉じた。
( 伝えたい者には伝わるんだ、俺の言葉でも…。)
俺のもとにはとても満足した気持ちが訪れていた。
心地よい酔いと共に。

【 TORQUE文学:湾岸トルクナイト ⑬ 】へ続く。

2件のコメント (新着順)
にしもん@50s pro バッジ画像
2026/04/20 17:32

繊細に時には大胆に🚗💨🌀😀✨

皆さん地震大丈夫❓️

ちょく バッジ画像
2026/04/20 14:19

ワォー まさかの友情出演 🥳
広坂レジェンドまで登場とは
感激です。🥰

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