TORQUEトーク

2026/04/22 15:57

【 TORQUE文学:頭文字Torque ② 】

【 TORQUE文学:頭文字Torque ① 】より続き。
https://torque.kyocera.co.jp/chats/xqketujeylellyxj

僕の愛車『トヨタ86』が納車されてから、もぅすぐ半年になる。
今の車に決めるまでには、お父さんと一緒に中古車屋さんを何件もまわった。
僕は運転免許は『オートマチック車限定免許』では無いので、『マニュアルトランスミッション車』を運転できる。
小さな頃から車好きの父のもとで育った僕だから、免許を取得する時はオートマ限定なんて最初から論外だった。
もちろん、今の86も6速のマニュアル車だ。
どっちでもいいことなんだけど、『マニュアルミッション車』のことを、関東方面では「マニュアル」、関西方面では「ミッション」と略して呼んでいる。
僕の住んでいるのは関西なので、周りの人たちはマニュアルミッション車を「ミッション」と呼ぶが、僕は「マニュアル」と呼んでいる。
周りからは浮いているかもしれないが、意味はチャンと通じるからそれでかまわないと思っている。
オートマチックの車だって、正確には『オートマチックトランスミッション車』なのだから、ミッション車の一種だ。
だから、『マニュアルトランスミッション車』のことを『ミッション車』と呼ぶのは、僕的には抵抗があるんだ。
そんな理由で、僕はクラッチのある3ペダルの車は『マニュアル車』と呼ぶことにしている。
ちなみにお父さんは「MT」「AT」って言ってるけど、それだと僕と同年代の人には通じないこともある。
だから「オートマ」「マニュアル」の言いかたが、一番ベストな気がしている僕だ。
僕がお父さんと一緒に今の愛車86を探していて一番驚いたのは、中古車市場には『トヨタ86』はマニュアル車がとても少ないということだ。
『トヨタ86』という車は、「車体はトヨタ製・エンジンはスバル製」という、2つの自動車メーカーの製品を組み合わせて作られている。
だからスバル社からも「トヨタ86」とほとんど同じ車が「スバルBRZ」という車名で販売されている。
86と同じくBRZのほうも、中古車市場ではマニュアル車はとても少ない。
「今の時代、普通自動車の運転免許を取得する人の9割近くが『オートマチック車限定免許』ですからね。」
中古屋さんの店員の中には、そんなことを言う人もいた。
しかし、僕は思った。
86のようなスポーツタイプの車なら、MT車のほうが多く出回っていて、AT車のほうが少ないのが普通ではないのか?
オートマチック限定免許だって、限定を解除すればMT車に乗ることだって可能なのだから。
でも現実はその逆なのだ。
そのせいか、同じような条件の車を比較すると、MT車のほうが相場が高い傾向にある。
新車で購入する時は、AT車のほうが約10万くらい高額なのに。
僕たちが86探しを開始した頃に、帰りの車の中でお父さんはこんなことを僕に言った。
「86やBRZは、新車はMTのほうが売れてるんだよ。ただAT車ばかりが売れ残ってるだけだよ。」
要はMT車は人気が高いから、すぐに売れてしまうということのようだ。
「中古屋さんが言ってた、オートマ免許の人が多いとか、関係ないよね。」
「まぁ、彼らも商売だから〈MT車は入庫したら別ルートに流してる〉とか、言いにくいだろうし。」
別ルートとは、スポーツカーを得意としているショップや、そんなブローカーの人たちのようだ。
お父さんは車を運転しながら、こんなことも僕に言う。
「覚えておくといいよ。世の中ではどんなものも、数多く出回るものは価値が低く、逆に少ないものは価値が高い。」
「そうだね。『レア物』ってやつだよね。お菓子のオマケのカードやシールなんかも、なかなか出ないのはネットで高値で売ってるし。」
僕はそういったアイテムには興味が無いが、友達の中にはお金を注ぎ込んで集めてるコレクターもいる。
「同じ価値という言葉を使うけど、〈物質価値〉と〈経済価値〉とは、また違うんだけどね。」
「どう違うの?」
今の時代は分からないことはスマホで調べればいいのだけど、せっかくだから今は、お父さんに説明してもらいたかった。
「500円玉2枚と千円札一枚では、同じ1000円分の商品やサービスと交換できるよな。これが経済価値。」
まぁ、それは当然だろう。
金額が同じなら、硬貨と紙幣で同じものが同じ量だけ買えるんだから。
「じゃあさ。さっきの2種類の1000円を、お金以外の事で使うとしたらどうだろうか?」
「…えぇっ…!?」
僕はお父さんの言ってることが、すぐには分からなかった。
「それって、どういう意味なの。お金って、お金以外の使いかたなんてできるの…?」
まずはお父さんの言ってることの意味を理解しなければ、話しが始まらない。
「例えばだけど、千円札なら〈紙〉として使えるよな。」
なるほど。そういうことか、と僕は理解しはじめた。
「千円札は紙だから、メモ用紙にも使えそうだけど。でもすでに印刷してあるから、メモ用紙としてはあんまりだね。」
「そうだな。太いマジックで書き込めば、なんとか使えるかもしれないが、そうするとたくさんのことは書けない。」
僕の理解は間違っていないようだ。
つまり、『物質的価値』とは、お金ではなく〈物体〉とした見た場合のことだろう。
「あと千円札は、トイレでも大のほうで使えそうだね。これも使いにくそうだけど。」
「積極的に使いたいとは思えないな。」 
そう言ってお父さんは笑った。
「紙だから燃やせば暖を取れるけど、それもほんのわずかの間だけだね。」
こんなことは今まで考えたことが無かったが、千円札はお金以外に使おうとすると、途端に用途が少ないものだ。
「じゃあ、500円玉2枚はどうかな?」
お父さんは次に硬貨のほうを考えてみろと言っている。
「硬貨は重いからオモリになるし、固いから道具としても使えるね。大きめのマイナスネジとか回せそう。」
硬貨のほうは、お金以外にもイロイロと使えそうだ。
「500円玉は金属だから、溶かせばまた違うものに生まれ変わるしな。」
確かにそうだ。材料として見ても、硬貨のほうは再生可能なのだ。
僕はお父さんの言いたいことが分かってきた。 
「同じ1000円でも硬貨と紙幣では、経済価値は同じでも物質としての価値は、硬貨のほうが高い場合が多いんだね。」
「そうかもしれない。時と場合に寄るけどね。」
今まで考えたことも無かっただけに、こんな話しは意外と面白いものだと思えた。
「それでさ、86なんだけど。新車はATのほうが高額だから経済価値が高い。でも中古車市場ではMT車のほうば経済価値が高い。物質価値は同じ車だから変わらない。」
「うん、今日お店で見たきたもんね。」
「そうなると、新車でAT車を購入した人は、買う時MT車より高くて、売る時MT車より安いんだ。」
「損だよね。」
「うん。購入するユーザー側からすると、そういうことになる。」
ならば、損な86のAT車なんて、そもそも新車から全然売れなくてもおかしくない気もする。
「しかし、世の中はオートマチック車の免許を取る人のほうが多いからな。」
やはり、経済価値としては低い中古の86のAT車でも、そのあたりの事情から需要があるのだろう。
「免許を取る時は、AT限定のほうが2万円くらい費用が安いけどね。」
「安いけど、後から限定解除する場合はその差額じゃすまない。5~10万円くらいかかる。」
最初からAT免許など眼中に無かった僕には、今さら関係無い話だ。
だが、改めて考えるてみると、いろいろと複雑な要素が絡み合っていて、単に損得が決められない。
現に僕は、高いほうのMT車を買おうと探しているのだから。
〈免許とる時にAT教習より余分に払って、車買う時にAT車より高いMT車の中古を買おうとしてる。新車ならMT車のほうが安いのに。〉
(一般的な自動車ユーザーの感覚だと、僕とお父さんのやってることは、そんな風に見えるんだろうな…)
と、自分でもそう思えてくる。
チョッと黙り込んだ僕にお父さんが言った。
「どっちがイイとか、どっちが得とか、そんなのその時の状況で常に変わるからな。」
「そうなんだね。」
「お父さんのスカイラインは、中古で買ってからもぅ20年以上経ってる。普通は新車で買う人なら2・3台は買い替えてるさ。」
確かにあのスカイラインは、僕が物心が付いたときから、すでにガレージに在った。
「中古で買って20年以上乗り続けているなら、凄くコスパ良いよね。普通なら。」
「そう、普通ならな。だけど、20年間で新車が買えるくらいの改造費用が、あのスカイラインにはかかってるからな。」
「もぅ、どっちが得とか損とか分かんないね。」
「うん。良い悪いや損得ばかり考えてたら、結局は何にもできないんだ。」
僕は愛車トヨタ86に乗ると、お父さんと車探しをしていた時のことを、今でもよく思い出す。
これが普通の安い足代わりの軽自動車を探していたら、こんな会話もお父さんとはできなかっただろう。
そんなことも含め、僕はこの車を購入して本当に良かったと思っている。

【 TORQUE文学:頭文字Torque ③ 】へ続く。
https://torque.kyocera.co.jp/chats/7ighxigl8wvvttti

1件のコメント (新着順)
にしもん@50s pro バッジ画像
2026/04/22 19:03

涙が出るようなよい話ですね🍺🍺🥲💦🔧

価値は人によって違うから、何が大事かを自分で決めなければなりませんね😀🍺✨💥

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