【 TORQUE文学:湾岸トルクナイト ④ 】
【 TORQUE文学:湾岸トルクナイト ③ 】より続き。
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昨夜の大阪湾岸線で、俺『にせもん』のスカイラインは『お嬢』の駆る白いポルシェにまるで歯が立たなかった。
俺の友人『むっちゃ』を介しSNSサイト・TORQUE SMILEにライブ中継されたその様子は、会員たちから『湾岸トルクナイト』と呼ばれているのだが、昨夜の投稿はいつまでも会員たちを賑わせていた。
いつも『湾岸トルクナイト』には、次の投稿までに数多くのコメントが寄せられるのだが、今回はそのコメントの内容がいつもよりかなりヒートアップしていた。
〈にせもんさんリベンジなるか?〉
〈スカイラインはさらなるパワーアップ?〉
〈ポルシェは何馬力・どんな改造?〉
〈5回目の走行はいつ?〉
〈次もお嬢とレースお願いしますっ!〉
…など。
走った翌日の夕方である今現在までに、コメントと返信は150件を超えていた。
皆が俺とお嬢の勝負を期待している。
だが、話題の本人である俺の気持ちは、ヒートアップする周りの連中とは微妙に食い違っていた。
今まで沈黙していたが、俺もコメントに参加してみた。
にせもん〈あんな美女なら何度もヌイてほしい(笑)〉
アルコールが入っていたこともあり、俺はふざけてそう書き込んだ。
〈…それNGでは…〉
そんな感じの返信がいくつも付いたが、俺はそれ以上やりとりを続ける気にはならなかった。
その時、俺のTORQUEの着信音がなった。どうやら『むっちゃ』からのようだ。
「にせもんさん、こんばんは。さっき書き込み見ました。」
俺が湾岸トルクナイトへ書き込んだことは、投稿主のむっちゃへ通知で知らされる。
彼はそれを見て電話してきたのだった。
「いつもよりもかなり賑やかだね。俺がお嬢にやられたトルクナイト。」
俺はわざと皮肉っぽく、投稿主のむっちゃに言った。
「いえいえっ、誰もにせもんさんがお嬢にやられたなんて思ってませんよ。今回は様子見ってことで…」
「コテンパンにやられたのさ。完敗だと思ってる。」
しばらくの間、むっちゃは黙っていた。
「それにしては…あんまり悔しくなさそうですね…」
むっちゃはちょっと不思議そうな感じで言った。
まぁ、それはそうだろう。
俺も走り終えた直後は、自分が悔しく思っていないのが不思議だった。
でも、時間が経ってみれば、だいぶ気持ち的に整理がついて来ている。
俺にはそれが上手く言葉にできないだけだ。
相手が自分の娘くらいの歳の女子なのだから、まったく追いつけなかった事に、尚更かなりの苛立ちを覚えるのが普通だろう。
だが、実際に走ったのは俺とお嬢の二人きりなのだ。
だから、俺が悔しくないのと同様に、お嬢も別に嬉しくはないだろうと俺には分かる。
向こうはそれを上手く言葉にできるのかもしれないが…。
「…なんかさ、悔しいよりも嬉しいかもしれない。」
「そりゃあ、美人お姉様にヌイてもらったんですもんね。」
さっきの俺の書き込みを見たまっちゃが、笑いながらそぅ言った。
「ハハハっ、今度会ったら金払わないといけないな。」
「そうですね。そのうち恐いお兄さん出て来ますよ。」
「そりゃ困ったなぁ。あんなポルシェで追いかけられたら、とても逃げ切れない。」
今度は俺も笑った。
そして少しの間を置き、むっちゃはポツリとこう言った。
「…やっぱりポルシェは速かったですか…」
むっちゃは昔 二輪の走り屋だった。
逆輸入されたスズキ刀に乗り、主に4輪を相手に公道レースをしていた。
賭けレースの雇われライダーをする以前の話しだ。
相手にするのは国産スポーツカーではなく、海外からの輸入車が多かった。
当時はまだ国産車では、バイクの相手になるほどの性能をもったスポーツカーが少なかったからだ。
輸入車の中でも、彼はポルシェを相手にレースをすることが多かった。
他の輸入車のドライバー達とは違い、ポルシェのドライバーは、いやゆる『ヤル気』があるものが多かったからだ。
世間のカーマニア達は、そんな武闘派のポルシェオーナーを『ポルシェ乗り』と呼んでいた。
「〇〇までどうですか?」
当時のむっちゃは高速道路のサービスエリアや、ワインディング道路のパーキングなどでポルシェ乗りを見つけると、そんな風に声をかけていたという。
俺と知り合うずいぶん前の話しだ。
「いいよ。△△を過ぎたらスタート、俺が先行でいいよね?」
バイクと車の2台でレースをする時は、車のほうが先行するという『暗黙の決まり』のようなものがあった。
発進加速が車よりの圧倒的に速いバイクを最初から先行にすると、そのままゴールまで独走してしまう可能性が強いからだと思われる。
また、レース中にバイクが転倒した場合に、真後ろを走っていた車がラーダーを轢いてしまう危険性も高い。
むっちゃがバイクでポルシェを相手に公道でレースをしていることは、当時 バイクや車のマニア達の間では有名になっていた。
その手の雑誌に取り上げられることも多かったので、もちろん俺も知ってはいた。
だが、俺は車でバイクを相手に走ることは無かったから、むっちゃの話題には、当時はあまり興味は無かった。
ちなみに『むっちゃ』という今も使っている彼のニックネームは、スズキ刀でポルシェをブチ抜く『無茶苦茶速いライダー=むっちゃ』から来ている。
日夜繰りひろげられていた、むちゃとポルシェ乗りたちとの熱い闘いは、その後に東本昌平という漫画家の『キリン』という作品の原案にもなった。
そんな過去のある むちゃだから、俺がお嬢のポルシェと走っていることにも、周りの者達以上に関心が高いのだろう。
むっちゃが俺に、ポルシェが速い車かどうかなんてのは、今さら尋ねることではない。
だが、俺は今の彼の心情を誰よりも察している。
「あぁ、やっぱりポルシェは別格だ。一緒に走った者にしか分からないよ。あの速さの質だけは。」
俺も今回、ポルシェの走りを再確認したという意味を込め、そう むっちゃに告げた。
「そうっ、そうなんですよっ!」
すぐに むっちゃの嬉しそうな声が返ってきた。
【 TORQUE文学:湾岸トルクナイト ⑤ 】へ続く。
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投稿を表示男性心を掴みつつ次回はどうなるのか楽しみです💥😀👍✨🍺
ヌカれた経験は少ないのでどれだけ激しいチューニングしてるか気になりますね🔧😀💥🍺