【 TORQUE文学:イエローインパクト⑰ 最終話 】
【 TORQUE文学:イエローインパクト⑯ 】より続き
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俺『北見 淳=ジュンテンダーJ.K』は、生まれて初めて訪れたスターバックスで彼女『秋川 零奈=レイナ』と、以前ネットで炎上したスタバ女子の記事について話していた。
社会問題になりそうなほどアチコチで炎上したのは、その記事の中でディスられている中高年の男性たちが、大勢で騒いだからだ。
それについての俺の見解を彼女に話したのだが、彼女はすぐに俺の言いたいことを理解してくれた。
本当に舌を巻いてしまうほど頭が良い。
秋川さんは、ただの若くて綺麗なだけの「お人形さん」ではないのだ。
「自分に自身の無い中高年の男性は多いのでしょうかね?」
そう言って、秋山さんは残り少なくなった自分のフラペチーノを口に入れた。
「ほとんどの男性はそうじゃないかな。歳をとるほど頭も体も衰えて来るからね。」
「でも、それは女性も同じですよね?」
と彼女は少し疑問そうな顔を浮かべる。
「うん、そうだね。同じ人間だしね。でもね、男は社会的な立場があるからね。それで衰えを隠せるんだ。」
「…あぁ、なんとなく分かります。それ。」
彼女には多くの説明をしなくても大丈夫なのを、既に確信している俺は次に話しを進める。
「こんな笑い話しを知ってるかな? 定年退職なった管理職の男性たちが、再就職を求めてハローワークに行くとする。」
「はい。」
「係の人に〈貴方はどんな事ができますか?〉って尋ねられると…」
「あっ、知ってます。それ。」
短大時代にスナックでアルバイトをしていた彼女だから、こんな定番ジョークは俺より得意なのかもしれない。
「オジサンたちは真面目な顔で〈はい、課長ができます。〉〈はい、部長ができます。〉って答えましたとさ。ですよね。」
俺は笑い顔で頷き、自分のアイス珈琲を飲む。
課長や部長とは役割の名称なのだ。
仕事の専門性を尋ねられている時には、返答にはならない。
年を取って管理の仕事を長く続けていれば、現場での実務能力はほとんど無いに等しい。
実はそんなに笑えない話しなのだ。このお話しは。
子供たちに将来なりたい職業の調査をすると、アンケート用紙に〈正社員〉と記入する子がいつも一定数居るのと、根は同じ問題なのだ。
「北見さんがずっと現場作業の仕事にこだわってる理由もソコなんでしょうね。」
余計な説明をしなくてもイイってのは、なんて楽なんだろうか。
「そうだね。少なくとも俺は〈生産設備の整備ができます。〉って答えられるからね。」
正直、俺はこんな話しをしたのは彼女が初めてだ。
彼女から声をかけられたのは一昨日の昼休憩。
それからまだ3日と経っていない。
俺が今の会社に入ってから30年経っている。
30年間誰にもしたことの無い話しを、話しはじめて3日と経っていない彼女にしたなんて…。
俺は自分の黄色い『TORQUE 5G』の画面を見た。
時刻は21時15分前になっていた。
このスタバに入ったのが18時前だから、およそ3時間弱の時間が経過していた。
「あっ、もぅこんな時間だっ。ゴメンゴメン、気が付かなった。」
そう彼女に言いながら、自分のほとんど残ってない最後のアイス珈琲を飲み干す。
俺の言葉に彼女も自分の黄色い『TORQUE G07』を覗き込む。
「あっ、本当だ…スミマセン、北見さん。」
話しを伸ばしたのは俺の責任なのに、なぜか彼女のほうが謝る。
「いや。秋川さんが謝る必要は無いよ。じゃあ、そろそろ出ようか。」
「はい、そうですね。まだまだお話ししたいんですが、ココはこの辺りでお開きにしましょう。」
彼女は自分の残り少なくっていたフラペチーノのを、小指の幅1本分だけ残して飲み干した。
ストローを使って残り最後まで吸ってしまうと「ズーズー」と汚い音が立ってしまうから少し残すのだろう。
こんなマナーもスナックのバイト時代に、ママや先輩に教えられたのだろうか。
二人とも後ろ髪を惹かれる思いで店を出て、別れの挨拶をする。
「さようなら。アイス珈琲、ご馳走様。」
「いえ、どういたしまして。面白いお話しありがとうございました。」
そして彼女は少し笑いながらこう付け加えた。
「よろしければ、この続きはラインで…さようなら。」
そう言って彼女はひとり駅に向かって歩き出した。
END