「嘘が付けないサラリーマン」 第54話~第66話
第54話
湖畔を離れ、
駅へ向かう道。
夜風は少し冷たく、
そのぶん
さっきの“触れないキスの距離”の温度が
まだ指先に残っていた。
歩きながら、
秋川の指が
そっと北見のほうへ寄る。
無意識。
でも、確かに。
北見は気づき、
迷いなく手を差し出した。
秋川は、
胸の奥がふっと熱くなるのを感じながら
その手に自分の手を重ねた。
指が絡む。
歩幅が揃う。
影が寄り添う。
「……さっきの……」
北見が小さく言う。
秋川は、
胸が跳ねるのを隠せない。
「……はい……」
「……すごく……大事な時間でした」
その言葉は、
キスより甘かった。
秋川は、
繋いだ手をそっと握り返した。
「……私も……です」
二人の影が、
夜の道でひとつに重なる。
朝。
目が覚めた瞬間、
胸の奥に昨夜の光景が蘇る。
湖畔の薄紫の空。
触れそうで触れない唇。
呼吸が触れ合う距離。
北見の囁き。
「……あなたが望んだときでいいです」
布団の中で、
秋川はそっと息を吸った。
――あの距離……
思い出すだけで……苦しい……
頬が熱くなる。
胸が跳ねる。
指先が震える。
鏡を見ると、
自分の表情が
昨日より柔らかくて、
どこか恋人の顔になっていた。
「……次……会ったら……」
言葉にした瞬間、
胸がさらに熱くなる。
通勤電車の中。
スマホが震える。
北見からのメッセージ。
北見:
「昨日の湖……
また一緒に行きたいです。
次は……もう少しだけ、近くにいたい」
“もう少しだけ、近くにいたい”
その言葉は、
昨夜の距離の続きだった。
秋川は、
胸の奥がふっと震えるのを感じながら
返信を打つ。
秋川:
「……はい。
私も……
もっと近くにいたいです」
送信した瞬間、
胸が跳ねる。
第55話
布団に入っても、
秋川はまったく眠れなかった。
目を閉じると、
昨夜の湖畔が浮かぶ。
触れそうで触れなかった唇。
呼吸が触れ合った距離。
北見の囁き。
「……あなたが望んだときでいいです」
その声が、
胸の奥で何度も反響する。
――次……
会ったら……
きっと……
頬が熱くなる。
胸が跳ねる。
指先が震える。
枕に顔を埋めても、
シーツを握っても、
落ち着かない。
「……どうしよう……
明日……会うのに……」
恋人としての初めてのキスを
意識してしまう。
眠れない理由は不安じゃない。
期待だった。
翌朝。
鏡に映る自分は、
いつもと同じはずなのに
どこか違って見えた。
頬が少し赤い。
目元が柔らかい。
胸の奥が静かに高鳴っている。
――今日……
北見さんに会う……
その事実だけで、
心がふっと温かくなる。
服を選ぶ手が、
いつもより慎重になる。
「……これで……いいかな……」
自分に問いかける声が
ほんの少し震えていた。
待ち合わせ場所に現れた北見は、
どこか落ち着かないようで、
でも決意を秘めた表情をしていた。
秋川を見ると、
自然に微笑む。
「……今日は、行きたい場所があります」
その言い方が、
昨日より深い。
二人は並んで歩き出す。
手を繋ぐのは自然で、
指が絡むのも自然だった。
電車に揺られ、
少し歩き、
視界がふっと開ける。
そこは――
夕陽が真正面に沈む、小さな桟橋。
湖畔よりも静かで、
人影はほとんどない。
風が弱く、
水面が鏡のように光を返す。
秋川は息を呑んだ。
「……ここ……」
北見は、
繋いだ手をそっと握り直した。
「……昨日の湖より……
もう少しだけ……
近づける場所がいいと思って」
その言葉は、
まるで
“キスのために選んだ場所”
と告げているようだった。
秋川の胸が、
一気に熱くなる。
第56話
桟橋の先端。
水面が夕陽を受けて揺れ、
風はほとんど吹いていない。
静かすぎるほど静かな場所。
秋川は、
繋いだ手の温度を確かめるように
そっと指を絡め直した。
北見は、
その小さな動きに気づき
ゆっくりと秋川のほうへ身体を向けた。
「……秋川さん」
呼ばれただけで、
胸が跳ねる。
北見は、
言葉を選ぶように
少しだけ息を吸った。
「……昨日の湖で……
触れそうで……触れなかったとき……
すごく……大事にしたいと思ったんです」
秋川の胸が、
ふっと熱くなる。
北見は続けた。
「……急がせたくないし……
無理もさせたくない。
でも……
あなたが望んでくれるなら……
もっと近くにいたい」
その“もっと近くに”は、
言葉以上の意味を持っていた。
秋川は、
胸の奥が静かに震えるのを感じながら
小さく頷いた。
「……私も……
北見さんと……
もっと……近くにいたいです」
その瞬間、
北見の表情が
静かにほどけた。
夕陽が沈みきり、
空が薄紫に変わる。
北見は、
秋川の頬にそっと手を添えた。
触れたのは指先だけ。
でも、
その温度は胸の奥まで落ちていく。
秋川は、
その手に吸い寄せられるように
ゆっくりと顔を上げた。
目が合う。
呼吸が重なる。
距離が縮まる。
触れそうで、
触れない。
でも、
触れたように甘い。
北見は、
囁くように言った。
「……秋川さん……
キス……してもいいですか」
その問いは、
優しさそのものだった。
秋川は、
胸の奥がふっと震えるのを感じながら
小さく頷いた。
「……はい……」
その一言で、
世界が静かに変わった。
北見は、
ゆっくりと顔を近づけ――
唇が、
そっと触れた。
強くない。
短くない。
ただ、
確かに触れた。
初めてのキス。
水面が揺れ、
風が止まり、
二人の影がひとつに重なる。
秋川は、
胸の奥がじんわり熱くなるのを感じながら
そっと目を閉じた。
――この人と……
恋人になってよかった……
第57話
唇が離れた瞬間、
世界がゆっくりと動き出した。
風の音。
水面の揺れ。
遠くの鳥の声。
全部が、
さっきまでより柔らかく聞こえる。
秋川は、
胸の奥がじんわり熱くなるのを感じながら
そっと目を開けた。
北見は、
驚くほど優しい目で
秋川を見つめていた。
「……秋川さん……」
名前を呼ぶ声が、
キスより甘い。
秋川は、
その声に吸い寄せられるように
そっと北見の胸に額を預けた。
北見は、
迷いなく腕を回し
秋川を抱き寄せた。
強くない。
でも、確かに包む抱擁。
秋川は、
その胸の中で静かに息を吸った。
――この人の腕の中……
落ち着く……
安心する……
北見の心臓の音が、
秋川の耳に微かに響く。
その鼓動は、
秋川の鼓動と同じ速さだった。
二人はしばらく、
言葉もなく抱き合っていた。
言葉より、
抱擁のほうが
ずっと深く伝わるものがあった。
桟橋を離れ、
駅へ向かう道。
夜風は少し冷たく、
そのぶん
さっきのキスの温度が
まだ唇に残っていた。
歩きながら、
秋川の指が
そっと北見のほうへ寄る。
北見は気づき、
迷いなく手を差し出した。
秋川は、
胸の奥がふっと熱くなるのを感じながら
その手に自分の手を重ねた。
指が絡む。
歩幅が揃う。
影が寄り添う。
でも今日は、
昨日までと違う。
繋いだ手の温度が、
恋人の温度になっている。
秋川は、
その違いを確かめるように
そっと握り返した。
北見は、
その小さな力に気づき
静かに微笑んだ。
「……秋川さん」
呼ばれただけで、
胸が跳ねる。
「……今日のこと……
本当に嬉しかったです」
秋川は、
胸の奥がじんわり熱くなるのを感じながら
小さく返した。
「……私も……
すごく……嬉しかったです」
第58話
朝。
カーテン越しの光が部屋に落ちてくる。
秋川は、
目を開けた瞬間に
胸の奥がふっと熱くなるのを感じた。
――昨日……
キス……したんだ……
思い出しただけで、
頬がじんわり熱くなる。
唇に触れた温度。
北見の手の位置。
抱き寄せられた腕の強さ。
水面の揺れ。
夕陽の色。
全部が、
まだ身体のどこかに残っていた。
布団の中で、
秋川はそっと唇に触れた。
「……まだ……あったかい……」
自分で言って、
さらに胸が跳ねる。
洗面台の鏡に映る自分は、
昨日までと同じはずなのに
どこか違って見えた。
目元が柔らかい。
頬が少し赤い。
胸の奥が静かに高鳴っている。
――北見さんに……
会いたい……
その気持ちが、
自然に浮かんでしまう。
恋人になった実感が、
鏡の中の表情に滲んでいた。
服を選ぶ手が、
いつもより慎重になる。
派手じゃないけれど、
少しだけ綺麗に見える服。
「……これで……いいかな……」
胸の奥がまた震える。
バッグを肩にかけると、
昨夜の帰り道の温度が蘇る。
繋いだ手の強さ。
歩幅の揃い方。
北見の横顔。
そして――
桟橋でのキス。
思い出すたび、
胸がふっと熱くなる。
通勤電車に揺られながら、
秋川はスマホを開いた。
北見からのメッセージはまだない。
でも、
それが逆に胸をくすぐる。
――今日……
どんな顔して会えばいいんだろう……
頬がまた熱くなる。
昨日までの恋人未満の距離とは違う。
もう、
キスをした恋人
として会う。
その事実だけで、
胸が静かに震える。
オフィスの自動ドアが開く。
その瞬間、
北見がこちらを振り返った。
昨日までと同じ朝。
同じ場所。
同じ距離。
でも――
視線だけが違う。
“キスをした恋人の視線”
だった。
秋川は、
胸の奥がふっと熱くなるのを感じた。
北見は、
誰にも気づかれないように
ほんのわずかに微笑んだ。
第59話
その日、
秋川は仕事に集中しようとしても
ふとした瞬間に
北見の姿が視界に入ってしまった。
コピー機の前。
会議室へ向かう背中。
席に戻るときの横顔。
どれも昨日までと同じはずなのに、
胸の奥がふっと熱くなる。
――キス……したんだ……
この人と……
思い出すたび、
頬がじんわり熱くなる。
北見も、
時々こちらを見ては
誰にも気づかれないように
ほんのわずかに微笑んだ。
その小さな笑みだけで、
秋川の心は静かに揺れる。
定時のチャイムが鳴り、
オフィスがざわつき始める。
秋川が帰り支度をしていると、
北見が自然な動きで近づいてきた。
誰にも怪しまれない距離。
でも、
恋人にはわかる距離。
「……秋川さん。
帰り……一緒に歩きませんか」
声は落ち着いているのに、
どこか昨日より柔らかい。
秋川は、
胸の奥がふっと跳ねるのを感じながら
小さく頷いた。
「……はい」
自動ドアを抜けた瞬間、
空気が変わった。
職場の距離ではなく、
恋人の距離に戻る。
北見は、
自然な動きで秋川の隣に立った。
歩幅が揃う。
肩が触れそうで、
触れない。
でも、
触れたように温かい。
秋川は、
胸の奥がじんわり熱くなるのを感じた。
北見は、
その揺れに気づいたように
そっと囁いた。
「……昨日のこと……
ずっと思い出してました」
秋川は、
息を吸うのを忘れた。
「……わ、私も……です……」
声が震える。
でも、止まらない。
北見は、
その震えを受け止めるように
そっと手を差し出した。
「……繋いでも、いいですか」
その問いは、
キスの翌日だからこそ
生まれる優しさだった。
秋川は、
胸の奥がふっと熱くなるのを感じながら
その手に自分の手を重ねた。
第60話
オフィスを出た瞬間、
二人の距離は自然に“恋人の距離”に戻った。
指が絡む。
歩幅が揃う。
影が寄り添う。
昨日のキスの余韻が、
まだ指先に残っている。
秋川は、
その温度を確かめるように
そっと握り返した。
北見は、
その小さな力に気づき
静かに微笑む。
「……秋川さん。
今日も……一緒に帰れて嬉しいです」
その言い方が、
昨日より柔らかい。
秋川の胸がふっと熱くなる。
しばらく歩いたあと、
北見が少しだけ息を吸った。
何かを言おうとしている気配。
秋川は、
胸の奥が静かに跳ねる。
北見は、
繋いだ手をそっと握り直しながら言った。
「……昨日の桟橋……
すごく大事な時間でした」
秋川の胸がまた熱くなる。
「……私も……です」
北見は、
その返事に安心したように
少しだけ表情を緩めた。
「……だから……
また、ああいう時間を……
ちゃんと作りたいと思って」
その“ちゃんと”が、
恋人としての誠実さを含んでいた。
北見は、
歩く速度を少しだけ落とし
秋川のほうへ身体を向けた。
夕暮れの光が、
二人の影を長く伸ばす。
「……秋川さん。
次の休み……
また一緒に出かけませんか」
その声は、
昨日のキスの続きのように柔らかい。
秋川は、
胸の奥がふっと震えるのを感じた。
「……行きたいです。
北見さんと……」
その言葉を聞いた瞬間、
北見の目が静かにほどけた。
「……ありがとうございます。
じゃあ……
今度は、僕がもう少しだけ……
特別な場所を考えておきます」
第61話
部屋の灯りを落とすと、
静けさが一気に戻ってくる。
でも、
胸の奥だけは静かにならなかった。
秋川は、
ベッドに腰を下ろしたまま
そっと息を吸った。
――次の休み……
北見さんと……デート……
その言葉を思い浮かべただけで、
胸がふっと跳ねる。
昨日のキスの温度が、
まだ唇のどこかに残っている。
そして今日、
帰り道で繋いだ手の温度も。
全部が、
今日の夜を落ち着かないものにしていた。
布団に入って目を閉じても、
眠気はまったく来なかった。
代わりに浮かんでくるのは、
北見の横顔。
桟橋でのキス。
抱き寄せられた腕の強さ。
帰り道の手の温度。
そして――
「今度は、僕がもう少しだけ……特別な場所を考えておきます」
その言葉。
“特別な場所”
“もう少しだけ”
その二つが、
秋川の胸を静かに、でも確実に揺らす。
――もしかして……
また……近づくのかな……
頬が熱くなる。
胸が跳ねる。
指先が震える。
布団をぎゅっと握っても、
落ち着かない。
眠れないまま、
スマホを手に取る。
北見からのメッセージはない。
でも、
それが逆に胸をくすぐる。
名前を見るだけで、
胸の奥がふっと熱くなる。
――明日……
どんな顔して会えばいいんだろう……
昨日までの恋人未満の距離とは違う。
もう、
キスをした恋人
として会う。
その事実だけで、
胸が静かに震える。
秋川は、
布団の中でそっと呟いた。
「……どうしよう……
眠れない……」
でも、
その声には不安がなかった。
胸の奥にあるのは、
期待だった。
次のデートで、
どんな距離が生まれるのか。
北見が選んだ“特別な場所”が
どんな意味を持つのか。
そして――
また、
あの距離に近づくのか。
考えるだけで、
胸がふっと熱くなる。
秋川は、
枕に顔を埋めて小さく笑った。
「……楽しみ……なんだ……」
第62話
春の午後。
待ち合わせ場所に現れた北見は、
どこか落ち着かないようで、
でも決意を秘めた表情をしていた。
秋川を見ると、
自然に微笑む。
「……来てくれて、ありがとうございます」
その声は、
昨日より柔らかい。
秋川の胸がふっと熱くなる。
「……こちらこそ……」
秋川は、
その距離に胸が静かに揺れる。
北見は、
その揺れに気づいているように
そっと指を近づけた。
触れない。
でも、
触れたように甘い。
沈黙。
けれど、
その沈黙は恋人の沈黙だった。
電車を降り、
少し歩くと、
視界がふっと開けた。
そこは――
丘の上にある、小さな展望台。
街の灯りが遠くに見え、
風が静かに吹き抜ける。
人影はほとんどない。
夕陽が沈む方向が真正面にある。
秋川は息を呑んだ。
「……ここ……」
北見は、
繋いだ手をそっと握り直した。
「……秋川さんが、
“高いところから見る景色が好き”って
前に言ってたのを覚えてて……」
秋川の胸が一気に熱くなる。
――覚えてくれてた……
北見は続けた。
「……恋人としての時間を……
ちゃんと過ごせる場所がいいと思って……
ここにしました」
その言葉は、
秋川の胸に深く落ちた。
夕陽が展望台を薄い金色に染める。
展望台の手すりに並んで立つ。
風が頬を撫でる。
秋川は、
胸の奥が静かに震えていた。
――北見さんが……
こんな場所を選んでくれた……
その想いが、
身体をそっと前へ押す。
秋川は、
自分でも驚くほど自然に
北見のほうへ身体を寄せた。
肩が触れる。
触れた瞬間、
胸が跳ねる。
北見は、
その動きに気づき
驚いたように目を瞬いた。
でもすぐに、
優しく微笑んだ。
秋川は、
その笑みに背中を押されるように
さらにそっと寄り添った。
自分から。
自分の意思で。
北見は、
迷いなく腕を伸ばし
秋川の肩をそっと抱いた。
第63話
夕陽が沈みきり、
空は薄紫から群青へ変わり始めていた。
展望台の手すりに並んで立つ二人。
秋川は、
自分から寄り添った肩の温度を
まだ確かめるように感じていた。
北見の腕が、
そっと秋川の肩を包む。
強くない。
でも、確かに守る抱擁。
秋川は、
胸の奥がじんわり熱くなるのを感じた。
――こんなふうに……
自分から近づけるなんて……
その事実だけで、
胸が静かに震える。
風が弱まり、
展望台が静かになる。
北見は、
寄り添う秋川の横顔を
ゆっくりと見つめた。
その視線は、
一度目のキスのときより
深くて、
優しくて、
迷いがなかった。
秋川は、
その視線に気づき
胸がふっと跳ねる。
頬が熱くなる。
呼吸が浅くなる。
北見は、
囁くように言った。
「……秋川さん……
さっき……自分から寄ってきてくれて……
本当に……嬉しかったです」
秋川は、
その言葉に胸がまた震えた。
「……私……
北見さんのそばに……いたくて……」
その一言で、
北見の目が静かにほどけた。
北見は、
秋川の肩を抱いたまま
ゆっくりと身体を向けた。
秋川も、
自然に北見のほうへ顔を向ける。
目が合う。
呼吸が重なる。
距離が縮まる。
秋川は、
胸の奥が苦しいほど高鳴っているのを感じた。
――また……
キス……するの……?
北見は、
その揺れを受け止めるように
そっと囁いた。
「……秋川さん……
もう一度……
キスしてもいいですか」
その問いは、
一度目より深い優しさだった。
秋川は、
ゆっくりと目を閉じて
小さく頷いた。
「……はい……」
北見は、
秋川の頬に手を添えた。
指先が触れた瞬間、
秋川の胸がふっと震える。
そして――
ゆっくりと顔を近づける。
唇が触れた。
一度目より、
少しだけ長く。
少しだけ深く。
でも、
決して急がない。
秋川は、
その温度に身を委ねながら
そっと目を閉じた。
――この人と……
もっと近づいていきたい……
第64話
唇が離れたあと、
展望台にはしばらく言葉がなかった。
でもその沈黙は、
気まずさではなく
満ちている沈黙だった。
秋川は、
胸の奥がじんわり熱くなるのを感じながら
そっと息を吸った。
北見は、
秋川の頬に添えていた手を
ゆっくりと下ろし、
そのまま指先を絡めてきた。
しばらくして、
北見が静かに口を開いた。
「……秋川さん」
呼ばれただけで、
胸が跳ねる。
北見は、
夕闇に溶けるような声で続けた。
「……こうして……
あなたと並んで景色を見る時間が……
本当に好きなんです」
秋川は、
胸の奥がふっと震えた。
「……私も……
北見さんといる時間……
すごく……落ち着きます」
北見は、
繋いだ手をそっと握り直した。
「……これからも……
こういう時間を……
大事にしていきたいと思ってます」
“これからも”
秋川は、
胸の奥がじんわり熱くなるのを感じながら
小さく頷いた。
「……私も……
北見さんと……
これからも……一緒にいたいです」
言った瞬間、
自分の声が少し震えているのに気づく。
北見は、
その震えを受け止めるように
秋川の手を包み込んだ。
「……ありがとうございます。
その言葉だけで……
十分すぎるくらいです」
風が止まり、
展望台の灯りが二人を照らす。
影がひとつに重なる。
二人は、
手を繋いだまま
しばらく景色を眺めていた。
具体的な計画なんてない。
どこへ行くとか、
何をするとか、
そういう話じゃない。
ただ、
「この先も一緒にいたい」
という気持ちだけが
静かに共有されていた。
それだけで十分だった。
秋川は、
北見の肩にそっと頭を預けた。
北見は、
迷いなくその肩を受け止めた。
第65話
展望台を後にして歩き出すと、
夜風が少し冷たかった。
でも、
繋いだ手の温度が
その冷たさをすぐに消していく。
秋川は、
北見の手をそっと握り直した。
昨日までの握り方とは違う。
“恋人としての未来を語ったあと”の握り方。
北見も、
その小さな力に気づき
指を絡め直した。
強くない。
でも、確かに深い。
「……寒くないですか」
北見の声は、
いつもより柔らかい。
秋川は、
胸の奥がふっと熱くなるのを感じながら
小さく首を振った。
「……大丈夫です。
北見さんが……手、繋いでくれてるから」
その言葉に、
北見の歩幅がほんの少しだけ緩む。
まるで、
その一言を噛みしめるように。
街灯の下を歩くたび、
二人の影が寄り添って伸びる。
秋川は、
その影を見るだけで胸が温かくなる。
――未来の話……
してしまった……
思い出すたび、
頬がじんわり熱くなる。
北見は、
秋川の横顔をちらりと見て
そっと囁いた。
「……さっきの言葉……
本当に嬉しかったです」
秋川は、
胸が跳ねるのを隠せない。
「……私も……
北見さんの言葉……
すごく……嬉しかったです」
駅へ向かう道。
人通りは少なく、
夜風が静かに吹き抜ける。
北見は、
繋いだ手をそっと引き寄せ
秋川の身体を自分のほうへ寄せた。
強引じゃない。
でも、
確かに“恋人の距離”。
秋川は、
胸の奥がじんわり熱くなるのを感じた。
「……北見さん……」
呼ぶ声が、
自分でも驚くほど柔らかい。
北見は、
その声に応えるように
秋川の手を包み込んだ。
「……秋川さん。
これからも……
こうして一緒に帰りたいです」
その言葉は、
未来の話の続きだった。
秋川は、
そっと微笑んで返した。
「……はい。
私も……
ずっと……一緒に帰りたいです」
第66話
朝。
カーテン越しの光が部屋に落ちてくる。
秋川は、
目を開けた瞬間に
胸の奥がふっと熱くなるのを感じた。
――昨日……
二度目のキス……
そして……未来の話……
思い出しただけで、
頬がじんわり熱くなる。
唇に残る温度。
肩に寄り添ったときの安心感。
繋いだ手の強さ。
「これからも」という言葉。
全部が、
まだ身体のどこかに残っていた。
秋川は、
布団の中でそっと息を吸った。
「……幸せ……だな……」
洗面台の鏡に映る自分は、
昨日までと同じはずなのに
どこか違って見えた。
目元が柔らかい。
頬が少し赤い。
胸の奥が静かに高鳴っている。
――未来の話……
あんなふうに言ってくれるなんて……
思い出すたび、
胸がじんわり温かくなる。
秋川は、
鏡の前でそっと微笑んだ。
「……私……
あんな顔で……北見さんの隣にいたんだ……」
服を選ぶ手が、
いつもより慎重になる。
派手じゃないけれど、
少しだけ綺麗に見える服。
「……これで……いいかな……」
昨日の帰り道の温度が蘇る。
繋いだ手の強さ。
肩が触れ合う距離。
北見の横顔。
そして――
「これからも……こうして一緒に帰りたいです」
通勤電車に揺られながら、
秋川は窓に映る自分の顔を見た。
昨日より柔らかい。
昨日より恋人の顔。
――これからも……
一緒に帰りたい……
北見の声が、
胸の奥で静かに響く。
秋川は、
その言葉をそっと胸に抱きながら
小さく呟いた。
「……私も……
これからも……一緒にいたい……」
2026/05/08 23:59
2件のコメント
(新着順)
ミュートしたユーザーの投稿です。
投稿を表示つ、ついにー!!
思えば、初めてのデートでは、どうやって暗がりでチューするか‥🙀そればかり考えて緊張してた、ほぼサルのような10代でした💧
ミュートしたユーザーの投稿です。
投稿を表示いいのか?いいのか?と
想い積めながら読ませていただいてます。
読んだあとは、ひと息が必要です
では、また明日に