朝の渓流。
あゆが水面でバシャバシャしながら言った。
「あっ!いわな!今日なんか空気が軽い!飛べそう!」
いわなは深場から顔を出し、
「君はまず落ち着くところから始めよう」と冷静。
そこへ、主がゆっくり浮かび上がった。
主「……若いの、今日は気をつけよ。
“飛ぶ魚”が戻ってくる日かもしれん」
いわな「また主の昔話が始まったよ」
あゆ「来るの!? Wi-Fiのパスワード聞きに!?」
いわな「だからWi-Fiじゃないってば」
そのときだった。
上流で“ひゅんっ”という風切り音。
次の瞬間、銀色の影が空を横切った。
あゆ「えっ……飛んだ!?」
いわな「いやいやいや、今の絶対魚だったよね!?」
影はツバメのように滑空し、
渓流の上をくるりと旋回して戻ってきた。
主「……来たな。あれが“フライ”だ」
あゆ「名前がそのまんま!」
いわな「もっとひねってほしかった…」
フライは空中でピタッと止まり、
三匹の前にふわりと降りてきた。
フライ「主さん、お久しぶりです。
あの……Wi-Fiのパスワード、変わりました?」
いわな「本当に聞くんだ!?」
あゆ「やっぱりWi-Fiあるんだ!」
いわな「ないよ!」
主は落ち着いた声で言った。
主「パスワードは変わらん。
“流れに身を任せよ”じゃ」
フライ「入力が難しいんですよね、それ……」
あゆ「そりゃそうだよ!」
いわな「空飛んでるのにアナログすぎる…」
フライはヒレをぱたぱたさせながら空へ舞い上がった。
フライ「では、また電波が弱くなったら来ますね!」
いわな「電波じゃないってば!」
あゆ「また来てねー!」
フライが去ったあと、主がぽつりと言った。
主「若いの、世の中にはな……
説明できんことが多いのだ」
いわな「主の話が説明できないだけでは…」
あゆ「でも楽しいからOK!」
主は深場へ沈みながら言った。
主「流れに逆らうなよ。
空を飛ぶ時もな」
いわな「飛ばないよ!」
あゆ「私はワンチャン飛べる気がする!」
渓流には、今日も不思議と笑いが流れていた。
「あっ!いわな!今日、川の“電波”弱くない!?」
いわなは深場から顔を出し、
「川に電波はないよ。君の脳内だけだよ」と即ツッコミ。
そのとき、上流で“ぽうっ”と光が揺れた。
昨日より明らかに明るい。
あゆ「ほら!あれ絶対ルーターでしょ!」
いわな「違うよ。川にルーター沈める人いないよ」
光が近づいてきた瞬間、
水面がふっと凪ぎ、巨大な影がゆっくり浮かび上がった。
主「……おはよう。今日も元気だな、若いの」
あゆ「主だ!主が出た!ログイン成功!」
いわな「だからWi-Fiじゃないってば!」
主はゆったりとヒレを動かしながら言った。
主「さっきの光か? あれはな……季節外れの桜が、ちょっと迷っただけだ」
いわな「迷ってあんな光り方します?」
主「する。たまに“やる気のある花びら”がいる」
あゆ「やる気のある花びら!? それ欲しい!」
いわな「食べ物じゃないよ」
主はふっと笑い、
水面に一枚の桜の花びらを浮かべた。
主「ほれ。今日のは特に元気だぞ」
花びらは、なぜか逆流する方向へスーッと流れていく。
あゆ「うわ!逆走してる!強い!」
いわな「いや、強いって何……」
主「では、わしは昼寝の時間だ。若いの、流れに逆らうなよ」
そう言って主は深場へ沈んでいった。
あゆ「……ねえいわな、主ってさ」
いわな「うん」
あゆ「絶対、Wi-Fiの概念わかってないよね」
いわな「君もわかってないよ」
二匹は逆走する花びらを眺めながら、
今日も渓流の不思議に振り回されるのだった。
2026/04/10 21:11
1件のコメント
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ミュートしたユーザーの投稿です。
投稿を表示今日もイワナさんに振り回されるのだった。🤷