『渓魚が誘う季節 〜渓流の女王と源流の王者〜』納竿の章
文︰mw_me 絵:mw_me
加筆︰イワナ
季節は巡り、やがて山々は鮮やかな秋色に染まり始める。禁漁期を目前に控えた秋の渓流は、一年に一度の特別な緊張感に包まれていた。

ヤマメは産卵期を迎え、その魚体に深く美しい「秋色(婚姻色)」を纏う。
雄のヤマメは鼻先が落ち込み、鋭く尖った「鼻曲がり」へと姿を変え、その顔つきは猛禽類のように勇ましくなる。
迫り来る冬と命の継承を前に、ヤマメの警戒心と攻撃性は極限に達していた。釣り人が差し出すスプーンに対し、威嚇するように激しい水しぶきを上げて襲いかかる。
その一撃は、生命の全てを燃やし尽くすかのような凄みに満ちている。
源流のイワナたちもまた、深い淵から浅い産卵床へと動き出す。
橙色の腹を輝かせた大型のイワナが、ペアリングのためにペアを探して彷徨う。
この時期のイワナは、自身の縄張りを侵す者に対して容赦がない。釣り人が送り込むルアーに対し、巨大な口を開けて獰猛に喰らいついてくる。

重々しく、どこか切ない引き。手元に伝わる手応えには、この過酷な山で生き抜いてきた生命の重みがズシリと乗っていた。
そして禁漁‥
川に深まる秋の気配と、納竿(のうかん)のとき。
釣り人は最後の一匹を優しく抱きかかえ、水中に解き放つ。
黄金色に色づいた樹々の葉が1枚、2枚と水面に落ち、魚の消えた波紋と一緒に流れていく。
「また来春、この流れで」
言葉には出さず、心の中で静かに思う。竿を収めた釣り人の背中に、渓谷の冷たい秋風がそっと吹き抜けていく。
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投稿を表示おはようございます。
禁漁期間は、イワナさんも渓流釣りを春までお休みするものなんですか?